学術研究用途における分析の事例:その他
【塩害調査】
コンクリート構造物の維持管理において、飛来塩分や融雪剤散布による塩害劣化が深刻化しています。塩害による鉄筋腐食の進行予測や、それに伴う補修方法の検討のために、コンクリート中の塩化物イオン量を把握することは重要です。
一般に、硝酸で抽出される塩化物イオンは、硬化コンクリートに含まれる塩化物イオンの全量と考えられており、JIS A 1154「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」に、塩化物イオンの定量は、電位差滴定法、吸光光度法、硝酸銀滴定法、イオンクロマトグラフ法のいずれかの方法とすると規定されています。これらの方法では、精度良く塩化物イオン量を分析することは可能ですが、現場から採取したコンクリートのコアサンプルや粉末サンプルをラボへ持ち帰る必要があり、また、分析自体時間がかかるので、その場で結果を確認したい場合には不向きです。
これらの試験方法の代替えとして、コンクリート中の塩素(Cl)量をその場で迅速に測定できるハンドヘルド蛍光X線分析計VANTAが、検査効率を改善できるツールとして有効です。
図は、コンクリート中の塩素(Cl)量をVANTAでコンクリートコア表面を10秒で測定した結果画面の例です。着目する元素以外の結果を非表示にすることができ、ユーザーファクター機能や仮想元素機能を用いて、基準サンプル(標準試料)の値に検量線を用いて補正したり、VANTAの測定値の単位(wt%)を、表示させたい単位(kg/m3等)に換算した値で表示したりすることもできます。
(ここでは、コンクリート密度を2350kg/m3として塩素(Cl)量を換算した値を表示しています)
≪コンクリートサンプルの測定例≫
擬似的にコンクリート中の塩素(Cl)量を0.3~20kg/m3程度に変化させて作成した複数の粉末サンプルにおいて、電位差滴定法とVANTAで測定した結果です。
機種はVANTA Cシリーズ、測定時間はSoilメソッドで30秒になります。
電位差滴定法の結果とVANTAの測定値は、決定係数R2=0.9987と高い相関性を示す結果となっています。
スペクトルを重ね合わせたグラフをみても、微量な塩素(Cl)量までエネルギー強度をきちんと検出できている事が分かります。
≪橋梁サンプルの測定例≫
ある橋梁の表面から深さ方向に2cm刻みでドリル法により採取した粉末サンプルを、電位差滴定法とVANTAで塩素(Cl)量を測定した結果になります。
機種はVANTA Cシリーズ、測定時間はSoilメソッドで30秒になります。
実際の橋梁サンプルにおいても、VANTAで測定した塩素(Cl)量は、電位差滴定法の値と比べて も遜色ないデータが得られていることが分かります。
粉末サンプルや小さなコアサンプルを測定するには、インターロック付き遮蔽チャンバーを備えたワークステーションを組み合わせて使用することにより、現場でも安全にかつ簡単に測定することができます。大きなコアサンプルや橋梁等のコンクリート表面を測定する際には、VANTA本体を直接サンプルに当てての測定も可能です。
近年では、コンクリート表面付近の塩素(Cl)量を測定し、そのコンクリートの種類に応じた各種パラメータを設定した理論曲線(フィックの拡散方程式)を利用して、コンクリート内部の塩化物イオン量を算出することも検討・評価されており、さらなる検査効率の改善が期待されています。
このようにVANTAでの測定は、現場で迅速にコンクリート中の塩素(Cl)量を把握することができるので、従来のラボでの検査に比べ、検査効率を大幅に改善することができ、メンテナンスコストや人件費の削減が可能となります。また、ドリル法で採取した粉末サンプルだけでなく、コアサンプルやコンクリート表面を直接測定することもできるので、今後のコンクリート構造物の塩害調査に大きく貢献することができます。