探触子ケーブルは、あらゆる超音波探傷検知や厚さ測定システムに不可欠なものですが、通常は、破損、摩滅、またはその他の欠陥がないことを確認する以外には、あまりオペレーターの注意対象にはならないものです。超音波探傷試験の大多数は、およそ2メートルまたは6フィートを超えない長さの探触子ケーブルを使って、500
KHzから20
MHzという従来の周波数範囲で実施されています。しかし、より高い試験周波数やより長いケーブルが関係する用途においては、必要に応じケーブル長を増し長さを調整することに、潜在的効用があると意識しておくのは重要なことです。
このアプリケーションノートでは、約20
MHz以下の試験周波数における、特別に長い探触子用ケーブルの使用について説明します。極めて高い周波数探触子(50
MHz以上)に関する特殊なケーブルの問題については、ホワイトペーパー高周波超音波探触子を指定する際の検討事項を参照してください。
ケーブル長が増すにつれて考慮するべき要素
考慮しなければならない要素として、ケーブル反射、ケーブル減衰、ケーブル遅延、ケーブルノイズの4点があります。ケーブル長が増すにつれ、特に約20メートル(65フィート)を超える長さのケーブルでは、これら4つすべてがより重大になります。
ケーブル反射
あらゆる超音波システムでは、励起パルス(メインバン)は、パルス発振機器から探触子へ、光速に近いスピードで通常の同軸ケーブル内を伝搬します。その励起パルスが探触子に到達すると、電気エネルギーの大部分が音波に変換されます。ただし、一部の電気エネルギーは反射してパルサーに戻り、パルサーに達するとそのエネルギーの一部が探触子に向かって反射され戻ります(ケーブルの各端部で反射するエネルギーの量は、主に電気インピーダンスのマッチまたはミスマッチに関係します)。その反射パルスは、再び探触子に達すると、ケーブルでの往復の電気的通過時間に等しい時間間隔で、元のパルスに続く2度目の小さい励起パルスとして動作します。
短いケーブルを使用した通常の試験では、この反射パルスは、最初の励起パルスの後に極めて短い時間で到達するので、探触子の性能に重大な影響を及ぼすことはありません。しかし、ケーブルでの電気的通過時間が探触子の共鳴周期(1/周波数)に近づくにつれ、反射パルスは、励起パルスの期間を延ばす上に、探触子を再度駆動してしまいます。このリンギングが加えられることによって、表面近傍の分解能が大きく制限される場合があります。遅延材付き探触子の場合には、反射パルスはさらに遅延材の境界面エコーを再駆動し、表面近傍の分解能を低下させてしまいます。極めて長いケーブルを用いた場合、ケーブルの電気的な長さに等しい時間間隔に分離された二重底面エコーや、第2の励起パルスも観測されます。
用途によっては、ケーブル反射の悪影響は、一振動子型探触子から二振動子型探触子へ切り替えることで回避が可能な場合があります。二振動子型は発振素子と受信素子を別々に用いるからです。さらに二振動子型の構成では、ターゲットから最初に到着したエコーのみに注目するのが一般的なため、増大する励起パルスとエコーリンギングは通常問題になりません(ただし、減衰、遅延、およびノイズのピックアップの問題は残る場合があります)。
ケーブル反射は、機器のダンピング抵抗を50オームにし、ケーブルの探触子端を50オーム終端とすることで回避可能な場合があります。しかしながら、これによってエコーの波形に望ましくない影響が出る可能性があります。いずれにせよ、すべての通常の非破壊検査用の探触子は、複雑な電気インピーダンスのプロファイルを持っているため、電気インピーダンスをパルス発振器に完全に一致させることは不可能です。
ケーブル減衰
長いケーブルでの電気抵抗により、長さに伴って増加する信号ロスを引き起こします。このため、エコー振幅を正確に探知することが重要となる探傷器の構成では、機器の感度は、試験で使う実際のケーブルによって常に校正する必要があります。通常のケーブル損失は、装置ゲインの単純な調整で補正できる小さなものですが、極端な事例においてはケーブルの探触子側でプリアンプの使用を推奨することがあります。
ケーブル遅延
探触子ケーブルを通る電気信号の通過時間は、接触型と二振動子型探触子を使う場合、総距離または総厚さの測定の一部として加算されます(しかし、エコーtoエコーモードでの厚さ測定の場合は異なります)。長いケーブルでは、測定時間が大幅に追加されて、ゼロ点補正されなければ誤差になる可能性があります。このため、厚さまたは距離の測定が、試験片からの最初の底面エコーのタイミングに基づいている設定においては、装置のゼロ点校正は必ず試験に使用する実際のケーブルで実行してください。これは、適切な校正手順に従えば容易に解決できます。
ケーブルノイズ
上に挙げた3つの条件よりもっとまれですが、長いケーブルを通して環境RFノイズをピックアップしてしまうことは、極めて長いケーブル、高ゲイン、およびモーターや溶接機の近傍のような電気ノイズのある環境を兼ね備えた用途では問題となることがあります。こうした場合、ケーブルノイズが、対象エコーを覆い隠してしまう可能性があります。可能な解決策としては、二重シールドの同軸ケーブル、ケーブルの探触子端のリモートプリアンプ、およびノイズ高周波成分を除去するローパス受信フィルタリングの使用が挙げられます。
超音波探傷試験におけるケーブルの作用例
以下の一連の波形は、10 MHzの広帯域接触型探触子を使って、10
mm厚の鉄鋼試験片の厚さを測る、簡単な探傷器の構成において、ケーブル長が増すことの影響を示します。ケーブル長は、1メートル(約3フィート)から60メートル(200フィート)へ、6段階に増加されています。これらの波形は、長いケーブルの影響についての一般的な例を示すものです。探触子の周波数や帯域幅が変化すれば、具体的な結果は違ってきます。影響は、高い周波数で顕著になり、低い周波数で小さくなります。
1メートル(3フィート)のケーブル |
4メートル(12フィート)のケーブル。励起パルス:やや大きく表示、底面エコー:やや広い、厚さ読み取り値のオフセット:0.26 mm。 |
10メートル(30フィート)のケーブル。励起パルス:かなり大きく表示、底面エコー:追加サイクルが発生、厚さ読み取り値のオフセット:0.26
mm。 |
25メートル(80フィート)のケーブル。ゲインを6
dB増加してケーブル損失を補償。励起パルス:大きく励振、底面エコー:ケーブル反射が後に続く、厚さ読み取り値のオフセット:0.68
mm。 |
40メートル(125フィート)のケーブル。励起パルス:さらに大きく励振、厚さ読み取り値のオフセット:1.09 mm。 |
60メートル(200フィート)のケーブル。励起パルスと底面エコーがどちらも倍増、厚さ読み取り値のオフセット:1.64 mm。 |