このアプリケーションノートでは、鋳鉄の黒鉛球状化率の測定方法、および球状黒鉛鋳鉄とねずみ鋳鉄の見分け方を説明します。超音波検査装置、および鋳鉄の黒鉛球状化率の非破壊検査で使用される技術について学びます。
鋳鉄の鋳造
鋳鉄の鋳造時には黒鉛状の炭素が添加物として使用されることが多く、添加量は一般的な鋳造において重量で2~4%、体積で6~10%です。鋳鉄内の黒鉛の微細形状は、鋳造物の機械的特性に大きな影響を及ぼします。黒鉛が薄片の形状である場合は、固くてもろい、ねずみ鋳鉄となります。黒鉛が球状塊の形状である場合は、柔らかくて可鍛性のある球状鋳鉄となります。
ねずみ鋳鉄も球状黒鉛鋳鉄も、溶融した鉄に炭素、ケイ素などの添加物を混ぜて作られます。こうした混合の一部は、よく最終の鋳型の中で行われます。混合にむらがあったり、鋳造プロセスに不備があったりすると、鋳造物の黒鉛球状化率がばらついたり、球状黒鉛鋳鉄の鋳造物内にねずみ鋳鉄の部分ができたりする場合があります。このようなばらつきによって、金属の機械的特性が著しく変化するため、鋳造所では球状黒鉛鋳鉄の均一性を調べる必要があります。鋳造物内で黒鉛の分布が均一であることと、黒鉛含有物が正しい形状(薄片ではなく球状)であることが重要です。
黒鉛球状化率のチェックには、顕微鏡による検査、および引張強度試験が効果的な方法です。もう1つの方法としては超音波検査があり、球状黒鉛鋳鉄とねずみ鋳鉄の音速の違いを測定するものです。この方法は、鋳造物を高速かつ非破壊的に評価できる点で好まれます。
鋳鉄における黒鉛球状化率の非破壊検査で使用される超音波検査装置
黒鉛球状化率の非破壊検査は、音速を測定できる超音波機器(厚さ計、探傷器、パルサーレシーバーを含む)であれば、どの機器でも行えます。当社の精密厚さ計は、すべて音速測定に特化しており、入力した厚さ校正値に基づいて鋳鉄やその他の材料における音速を直接読み取ることができます。39DL PLUS™厚さ計や、一振動子ソフトウェアを搭載した45MG厚さ計がその例です。厚さが25 mm(1インチ)以上のときは、多くの場合、厚さ計でハイペネトレーションソフトウェアオプションを使用することが推奨されます。
厚さ計で黒鉛球状化率試験を行うには、キーを1つ押して、厚さ値を入力するだけです。音速は、入力した厚さ値と測定されたパルス伝搬時間から自動的に計算されます。高/低アラーム機能を使用して、許容範囲外かどうかを知ることができます。厚さ計には、測定する厚さ範囲に適した探触子を組み合わせてください。一般的には、M1036接触型探触子(2.25 MHz)が選択されます。通常、音速の測定精度はおよそ0.1%です。
72DL PLUS™厚さ計では、39DL PLUS厚さ計および45MG厚さ計と比較して、タッチスクリーン式ディスプレイがより大きく、測定更新レートがより高くなっています(最大2 KHz)。また、この精密厚さ計では、時間測定分解能が向上しているため、より正確な音速計算が可能になっています。さらに、72DL PLUS厚さ計では、ワイヤレスおよび有線の通信オプションにより接続性が向上しているため、システムの統合に理想的です。
どのEPOCH™探傷器(EPOCH 650、EPOCH 6LTなど)でも、同様の方法で未知の音速を測定できます。適切な低周波数探触子に対して校正済みの探傷器を使用して、厚さが既知の箇所からの底面エコーを取得し、音速の校正を行うことができます。検出されたエコーに基づいて、材料音速が計算されます。
鋳鉄の黒鉛球状化率を測定するための超音波検査手順
純鉄、球状黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄における音速には一定の違いがあります。一般的に、純粋な元素鉄の音速は約5.9 mm/µs(0.232インチ/µs)、球状黒鉛鋳鉄の音速は約5.6 mm/µs(0.222インチ/µs)、ねずみ鋳鉄の音速は約4.8 mm/µs(0.192インチ/µs)です。各用途における正確な音速は、合金組成、粒状構造などのプロセス変数によって異なります。検査材料に合った校正用標準試料に基づいて、正確な音速を必ず確かめてください。
各用途に合わせて、音速と黒鉛球状化率の相関表を独自に作成することをお勧めします。公表されている研究では、音速と黒鉛球状化率の相関関係は直線的ではないことが示されています1。ただし、黒鉛を含む2種類の鋳造物で、黒鉛の割合やその他の条件は同じであり、違いは黒鉛の種類のみである場合(一方は薄片状の黒鉛(ねずみ鋳鉄)、もう一方は球状黒鉛(球状黒鉛鋳鉄))、音速に相当な違いが生じる可能性があります。
音速の測定では、試験片の既知の厚さが既知である必要になりがあります。一般的に、検査担当者が超音波による黒鉛球状化率検査を行うときは、厚さをマイクロメーターまたはキャリパーで機械的に測定できる鋳造物上の箇所で行います。検査箇所の厚さが不明である場合、正確な音速を測定することはできません。
超音波検出が利用可能なもう1つの用途は、球状黒鉛鋳鉄の鋳造物にねずみ鋳鉄が含有されている場合です。ねずみ鋳鉄の音速は球状黒鉛鋳鉄の音速よりも遅いため、ねずみ鋳鉄が含有される鋳造物を通るパルスの伝搬時間は、すべて球状黒鉛鋳鉄でできた鋳造物の場合よりも長くなります。測定される音速も遅くなります。実際の鋳造物では複雑な変数が影響するため、予めわかっている組成の校正標準に基づいて検査を設定することをお勧めします。ただし、球状黒鉛鋳鉄の鋳造物内で音速が局所的に遅くなる場合は、一般的に言って、潜在的な問題の兆候です。
注記:鋳鉄内の黒鉛の微細形状が有する黒鉛球状化率やその他の特徴は、Evidentが開発した解釈ソフトウェアを使用して微細に分析することもできます。詳細は、鋳鉄解析についてのアプリケーションノートをご覧ください。
参考文献
- ASM International, Metals Handbook, Volume 17, Nondestructive Evaluation and Quality Control, Metals Park, Ohio 1989 (Ninth Edition), pp. 531–535.
- Nondestructive Characterization of Cast Irons by Ultrasonic Method, http://www.ndt.net/article/wcndt00/papers/idn035/idn035.htm