このアプリケーションノートでは、電磁音響探触子(EMAT)を使って蒸気ボイラーチューブの肉厚を測定する方法について説明します。この用途で使用するEMATについて、その利点と制限事項、仕組み、超音波厚さ計や探傷器を使った測定方法など、詳しく見ていきましょう。
蒸気ボイラーチューブの肉厚測定におけるEMATの重要性
蒸気ボイラー内が非常に高温(800℃(1,472℉ °F)以上)になると、鋼製ボイラーチューブの内面および外面に、マグネタイトという特殊な堅くてもろい酸化鉄が形成されます。チューブの外面にこの酸化スケールがあると、一般的な二振動子型探触子を使用した超音波肉厚測定が阻害される恐れがあります。これには2つの理由があり、表面が非常に粗いことで正しい音響結合が妨げられるためと、酸化スケールの厚さが鉄鋼の厚さに加わるためです。
ただし、その名が示すようにマグネタイトには磁気的性質があるため、E110-SBなどの磁歪効果のある電磁音響探触子(EMAT)を使用できます。EMATには、従来の二振動子型圧電探触子と比較していくつかの利点があります。酸化スケールを除去する必要がないこと、スケールの厚さが肉厚測定値に追加されないこと、そして迅速に測定が可能で、液体カプラント(接触媒質)を必要としないことが挙げられます。
磁歪EMATの主な制約は、スケールが存在し、ボイラーチューブの外側に結合している場合にしか機能しないことです。また、EMATで測定可能な最小肉厚と測定精度は、従来の二振動子型探触子には遠く及ばないことと、小さな内部のくぼみに対して比較的感度が低いことも挙げられます。こうした理由から、EMATは初期に肉厚を素早く検査する際に使用し、その後、二振動子型探触子で気になる箇所を詳細に検査します。
測定法
非破壊検査(NDT)業界内で使用されているEMATには2種類あります。1つはLorentz EMATとして知られ、酸化スケールの存在は必要としませんが、極めて高い動力が必要となります。E110-SBなどの磁歪性EMATにはスケールが必要ですが、現場用ポータブル超音波厚さ計や探傷器で一般的なレベルのとても低い電力で作動します。
図1に示すように、磁歪性EMATは強力な永久磁石と、厚さ計からの励起パルスで駆動されると電磁石として作動するコイルで構成されます。図2に示すように、永久磁石はスケールの表面に垂直な磁場(下図内のBs)を発生させる一方で、電磁石で発生する動磁場(Bd)によってコイルで発生するパルスと共にスケールが内外方向に引かれます。
この動きによってスケール内に垂直入射横波が発生し、鉄鋼に伝播します。本質的に、スケールは音波パルスを発生させる探触子の能動振動子として機能します。音波パルスの周波数は、酸化の厚さが変化すると変動し、酸化が薄ければ増加し、厚くなれば低下します。一般的に薄いスケールの堆積では周波数は約5
MHzとなります。このプロセスは逆にも作用して、反射横波エコーがスケールを振動させるとコイルに電圧を発生させます。
図1:一般的なEMATの断面
図2:音波発生方法
スケール自体が探触子の振動子であるため、スケールの粗さは音響結合上の問題にはならず、スケールが厚さ測定値に加えられることはありません。EMATは横波を発生するため、厚さ計は標準的な炭素鋼の約3,240
m/s(0.1280インチ/µs)の横波速度に対して校正する必要があります。E110-SB EMAT探触子による一般的な測定精度は+/- 0.25
mm(0.010インチ)で、材料の特性により、測定可能な最小厚さは2 mm(0.08インチ)以上です。
蒸気ボイラーチューブの肉厚測定用のEMAT設定と測定手順
EMAT用途における超音波エコーの品質は、ある程度酸化スケール層の整合性に左右され、対象ボイラーチューブの各点においてバラツキが起こり得ます。ある点で使用可能なエコーが得られない場合は、近くの別の点を試してください。また、E110-SB探触子には、探触子面とボイラーチューブの表面の間の距離を変える可変絶縁体が内蔵されています。この絶縁体距離を調整して、多くの場合でエコー応答を最適化することができます。
ご使用の装置に応じて、EMATの設定は2種類あります。
1. 超音波厚さ計
E110-SB探触子を39DL PLUS™超音波厚さ計と1/2XA/E110アダプターと共に使用します。これによって、プローブの識別機能と、適切な信号状態に必要な追加のハイパスフィルターの両方が提供されます。アダプターを接続すると、自動的にEMATのデフォルト設定DEFM1-EMAT/E110が選択されます。
すべての厚さ計設定と同様に、最適な精度のために、既知の厚さを持つ厚い試験片と薄い試験片に対して2点速度 / ゼロ点校正を実施する必要があります。このような試験片が手元にない場合、通常は開始点としてデフォルトの設定で十分です。
厚さ計のゲインとエコーのブランキングを必要に応じて調整して、エコー検出を最適化します。EMATのデフォルト設定では、39DL
PLUS厚さ計は全波整流波形を表示します。この典型的な波形表示を図3に示します。
図3:典型的な整流EMAT波形困難な測定条件下で有用な、さらに詳しい波形の形状については、厚さ計の設定メニューからRF表示オプションを選択してください。EMAT測定による典型的なRF波形を図4に示します。
図4:典型的なRF EMAT波形
2. 超音波探傷器
EPOCH™シリーズ探傷器(EPOCH 6LT、EPOCH
650など)の標準的なEMAT起動設定および波形を、図5に示します。EMATに関連する低周波数ノイズを除去するために、バンドパスフィルターを常に使用する必要があることに注意してください。また、横波周波数は酸化スケールの厚さで変化するため、EPOCH探傷器の矩形波の周波数を最適なエコー応答のために必要に応じて調節する必要があります。
図5:基本設定パラメーター:音速0.1280インチ/µs、ゼロ補正0.650 µs、電圧400 V、ダンピング50 Ω、パルス周波数5.0 MHz、フィルター1.5~8.5 MHz。