ジュリア・キャギリアリーは、高校生でありながら論文著者でもあるという素晴らしい経歴の持ち主です。一流の科学誌International Journal of Coal Geologyに論文が掲載された最も若い研究者のひとりで、前例のない革新的な研究に取り組んでいます。当社は、彼女の研究や、自宅のあるフロリダからノースダコタの炭鉱に至る経緯について、ご本人に詳しくお話を伺いました。
「私はフロリダ州ジャクソンビルの高校に通っているのですが、その高校で1年半前に「科学研究セミナー」というオープンラーニングクラスが開催されました。そのセミナーに参加したことがすべての始まりです。」とジュリアが話を始めました。「参加した生徒たちは一般的な課題を選択し、文献調査、独自の研究を設計、実施し、地元の科学フェアで発表するというものです。」
ジュリアは、潤滑油で汚染された土壌のファイトレメディエーション(植物利用による土壌汚染修復技術)を研究することを選択し、自宅で実験を開始しました。「私はディープウォーター・ホライズンの原油流出事故(2010年メキシコ湾原油流出事故)を再現しようと、自宅の裏庭にプラスチック製の温室を作り、南東部の浜辺で一般的な50種類の沿岸植物を植えました。その植物に油を含んだ水をまき、植物を植えた土壌との間に違いがあるかどうかを確かめました。実験には成長した植物を使用し、その植物が成長するかどうかを確認しました。早生樹は鉛を吸収します。その仕組みを適用し、土壌から汚染物質を除去するために植物を使用してみたのです。」
同じ考えの研究者たちとの出会い
文献調査中、ジュリアは数人の科学者が自分と同じテーマで論文を書いていることを知りました。そこで彼女はその研究者らにメールで連絡を取りましたが、社交辞令のような返信が数通あっただけでした。それから彼女は、ディープウォーター・ホライズンの原油流出事故後の原油汚染した土壌を調査したデービッド・ウェインドーフ博士の研究論文を読みました。ウェインドーフ博士は研究イノベーション室の準副所長であり、テキサス工科大学土壌科学部の土壌学の教授およびBL Allen寄付基金教授でもあります。ウェインドーフ博士は、蛍光X線(XRF)分光法と可視近赤外(VIS-NIR)技術を使用して土壌の定量化と分析を行う産業調査の第一人者です。ウェインドーフ博士は、ジュリアと連絡を取り、プロジェクト設計に関する質問に熱心に対応しました。
ウェインドーフ博士は、この協力について次のように説明しています。「まず、土壌科学者としてお話しますと、この数年間、私が所属する土壌学会に参加する才能豊かな女性が増えていることは素晴らしいことだと考えています。幸い、私のプログラムにも素晴らしい女子学生が数人参加してくれています。彼女らは非常に優れた科学を生み出し、STEM各分野での女性の活躍を推進するリーダーとなっています。次に大学教授としてお話しますと、私は純粋な科学的好奇心と自分の考えを追求する情熱をもつ学生を常に求めています。こうした学生は、いい成績を取りたいからとか、指示されたからという理由ではなく、そのとき抱えている最も関心の高い問題の答えを見つけ出したいという純粋な欲求からその問題に取り組みます。ジュリアの欲求はまさにその知的好奇心によるものです。」
ウェインドーフ博士との出会いにより、ジュリアはテキサス工科大学を訪れ、可視近赤外分光法を使用して調査することになりました。プロジェクトは終わりの段階でしたが、自宅の裏庭での実験が地方から州レベルの科学博覧会に到達したのです。
ノースダコタ州の炭鉱へ激動の旅は続く
ウェインドーフ博士とこのプロジェクトを継続するにはどうすればいいか、ジュリアは科学への並々ならぬ好奇心から博士と議論を続けました。二人は、ポータブル蛍光X線(pXRF)とVIS-NIR技術を使用して定量化と分析を行う用途が他にないかアイデアを出し合いました。それまでpXRFとVIS-NIR技術が石炭に試されたことはありませんでしたが、石炭という土壌から自然な成り行きに思えました。
ウェインドーフ博士は、関係者に連絡を取り、ジュリアは次の実験に備えて文献調査を開始しました。6か月後、二人はノースダコタ州の採鉱場に立っていました。
ジュリアとウェインドーフ博士は、ノースダコタ州ビズマーク周辺にある4か所の褐炭採鉱場でサンプルを採取し、pXRFを使用して予備的な走査(スキャン)を実施しました(写真提供: デービッド・C・ウェインドーフ博士)。
ジュリアは、採取してきたサンプルをノースダコタ州ディキンソン州立大学のエリック・ブレビック博士の研究室で乾燥させ、粉砕し、加工しました。加工したサンプルはミネソタ大学のニック・ジェリンスキー博士のもとに送り、実験室ベースの乾式燃焼分析を行いました(写真提供:デービッド・C・ウェインドーフ博士)。
テキサス工科大学に戻り、まさに「大変な」仕事が始まる
ジュリアは、その後、飛行機でテキサス州ラボックに移動し、テキサス工科大学のウェインドーフ博士の研究室でpXRF分析法(Vanta™蛍光X線分析計)、NixPro光学センサー、可視近赤外拡散反射分光分析(VisNIR DRS)を使用し、収集した249個のサンプルを自ら調査しました。実験助手のシンシア・ジョーダンの協力を得て、流れ作業で249個のサンプルを2日以上かけて調査しました。
夕方に文献調査とデータ調整を行いました。統計学者で土壌科学者でもあるソンサブラ・チャクラボルティ博士の協力を得てデータを分析し、予測モデルを開発しました。チャクラボルティ博士は、インドのカラグプルにあるインド工科大学の准教授です。(写真提供:デービッド・C・ウェインドーフ博士)。
ウェインドーフ博士の研究室でチャクラボルティ博士の協力を得ながら、彼女は記述統計とデータのモデリングを開始しました。この論文は共同研究であり、研究過程全体にわたり書かれました。「素晴らしい経験でした」とジュリアは言います。「ウェインドーフ博士と出会わなければ決して成し遂げることはできませんでした。博士は全力でサポートしてくださいました」(写真提供:デービッド・C・ウェインドーフ博士)。
忘れられない17歳の誕生日
17歳の誕生日に、ジュリアはウェインドーフ博士からの電話で、論文がInternational Journal of Coal Geologyに掲載されることを知りました。審査が難しいことで知られている科学雑誌に論文が掲載されることを知ったときは「思いがけない幸運に恵まれたような、素敵なサプライズでした」と、ジュリアはそのときの喜びを語りました。
彼女の論文が有名な雑誌に認められたことは大ニュースでした。ジュリアはその雑誌に掲載された最も若い科学者のひとりであり、ジュリアが通う高校では雑誌に論文が掲載された初めての生徒となりました。ジュリアは、2020年の始めにテキサス州オースチンで開催されるOlympusのX線技術のシンポジウムで発表する予定です。彼女は「信じられないような経験です。また調査をしたいと思っています。研究のどの過程も刺激的で、もっと調査したくて仕方がありません。」と言っています。
ジュリアの科学への情熱のきっかけ
彼女の科学への関心について質問すると、ジュリアは5年か6年生のときには自分が科学の道に進みたいと考えていたと振り返ります。女子生徒向けのSTEMの学会に参加し、機械エンジニアになり、ジェットコースターを設計することを夢見ていたそうです。祖父母が分析工学を研究していたことから、彼女の科学的な才能は家族からその遺伝子を受け継いではいますが、ジュリアに最大の影響をもたらしたのは「ウェインドーフ博士をはじめとする周囲の素晴らしい人々」です。
ジュリアは、ウェインドーフ博士、両親、スクールアドバイザーの支援に心から感謝し、次のように話しています。「研究に必要な人と巡り会えたことが、私の成功の最大の要因です。この研究をしたいと思ったとき、否定した人は一人もいませんでした」
彼女はSTEMに関心のある若い女性に次のような素敵な言葉を贈っています。「あなたの考え方、アイデアが大切なのです。あなたのやりたい科学に価値があるのです。あなたの話を聞きたい人がいます。あなたのプロセスと考え方が重要なのです。あなたは科学者なのです。それが出発点です。」そして課題に直面したときには常に「創造性、順応性、受け入れる素直さ」を大切にすることだと、ジュリアは言います。
STEMの輝かしい未来へ向けて
写真提供: アナ・キャギリアリー。 | ジュリアの偉業について、ウェインドーフ博士にお尋ねしました。「私から彼女の功績の偉大さについては、いくら強調してもしすぎることはありません。私が16歳のときは、芝刈りをしたり、次の試験の勉強をしたりする毎日でした。ジュリアは国際的に認められている雑誌に最初の論文を発表したということです。彼女との研究で最も私に影響を及ぼしたことは、彼女の学問への飽くなき探求心です。ジュリアは驚くべき斬新な実験を行いましたが、その過程では、堅実な実験設計、大規模実験を実施する計画、科学、統計解析、論文構成/レイアウト、論文発表のためのピアレビューのプロセスなどについて学びました。今度、1月に彼女は科学研究のシンポジウムで研究成果を発表します。あえて言わせていただくと、彼女の前には研究者としての華々しい未来が広がっています。私は同じ科学者としてそのことを誇りに思います。彼女はこの先何年もこの国をリードする次世代の科学の象徴です。」 |
ジュリアの論文「Rapid quantification of lignite sulfur content: Combining optical and X-ray approaches(褐炭の硫黄分の高速定量化:光学法とX線の手法を融合さるアプローチ)」は、2019年11月号のInternational Journal of Coal Geologyに掲載されました。Olympusは、高校生で素晴らしい功績を残したジュリアに心からお祝い申し上げるとともに、STEM分野における今後の女性の活躍に大きく貢献されることを期待しています。