均一な照明と優れた試料コントラストを実現する照明技法
アウグスト・ケーラー(1866~1948)がケーラー照明として知られる新しい照明方法を開発するまでは、クリティカル照明が顕微鏡において最も優勢な技法でした。 クリティカル照明の問題点は、明るい光源が試料像と同じ平面上にフィラメント像を結像することにありました。 最終結像におけるフィラメント電球の可視性によって試料照明にムラができ、ぎらつきと陰影が生じました。 ケーラー照明では、焦点をぼかした光源像を使用して、試料をムラなく照らすことでこれらの問題を解決しました。
今日においても、次善の試料照明でも適切な観察が阻まれる場合は必ずケーラー照明を用います。 ケーラー照明は、透過光または反射光の経路を使用して、明視野観察法、暗視野観察法およびあらゆるバリエーションの位相差観察法においてムラのない試料照明を提供できます。 ケーラー照明によって、ムラのない照明、高分解能、優れた試料コントラストが実現します。
反射光顕微鏡で得られた画像。 上はケーラー照明なしで得られた画像、下はケーラー照明を使用して得られた画像です。 |
ケーラー照明のセットアップと使用方法
透過光顕微鏡: ケーラー照明では、光源と試料の間に作用する顕微鏡の光学部品がいくつか必要です。 これには、集光レンズ、視野絞り、コンデンサー絞り、コンデンサーレンズがあります。 集光レンズは光源から光を集め、コンデンサー絞り面に集束させます。 次にコンデンサーレンズがこの光を試料に照射します。
視野絞りを調整して、試料面の視野絞り像を試料の結像領域より少し大きいサイズに設定します。これは接眼レンズの視野絞りで見られる試料像の一部に相当します。 視野絞り、試料、接眼レンズの視野絞りはすべて同じ共役像面にあるため、この調整を行うと照明光線が接眼レンズの視野を完全に照らす一方で、接眼レンズの視野絞りによって阻止される外部光量を最小限にすることができます。
反射光顕微鏡: 反射光顕微鏡または落射照明は、金属、セラミックス、ポリマー、半導体(未加工シリコン、ウエハ、集積回路など)、スラグ、石炭、プラスチック、塗装などの光を透過しない試料の照明に使用します。
反射光顕微鏡でのケーラー照明のセットアップに必要となる重要な光学部品は、透過光顕微鏡の場合と反対向きに配置されます。 コンデンサー絞りの虹彩絞りは光源に近く、視野虹彩絞りは試料に近くなります。 反射光顕微鏡では、対物レンズは2つの機能を果たします。下方向では、対物レンズは適切に調整された集光レンズとして機能し、試料を照らす光の角度を制御します。 上方向では、対物レンズの開口数(NA)によって試料からの反射で得られる光の角度が決まります。 すべての条件を同じにした場合、NAが高いほど対物レンズの分解能が高くなり、試料の分解能も高くなります。
反射光顕微鏡の標準セットアップ |
ケーラー照明技法の適用
明視野観察法: 最も広く使用されている光学顕微鏡の技法。 試料の照明は、ステージ上部に配置された垂直照明を通して集束されたタングステンハロゲンランプにより上部から当てられます。 対物レンズを通ってビームスプリッターによって反射された光が試料を照らします。 試料表面から反射した光が対物レンズに再び入り、接眼レンズまたはカメラポートに到達します。 試料による入射光の吸収や回折があると、像に認識可能な差異が生まれます。 明度または色にわずかな差異がみられる試料には、暗視野観察法または反射型微分干渉観察法(DIC)を使用する必要があります(下記参照)。
明視野観察法によるマイクロチップの画像。 |
暗視野観察法: 試料によって散乱した光からコントラストが生じる場合に最適です。 試料による散乱のない光は対物レンズで集束されないため、像に取り込まれません。 その結果、試料の周辺は暗く見えます。 暗視野観察法の主な欠点は、最終像に現れる光が微弱であることです。 ケーラー照明技法が役立つのはこの点であり、試料は強く照らし出す必要があります。 影を投じるには、著しく滑らかな隆起形状は明視野画像に現れませんが、形状の側部を反射する光は暗視野画像で見ることができます。
暗視野観察法によるマイクロチップの画像。 |
位相差観察法: 試料から反射した光のさまざまな光路長の干渉から試料のコントラストを生み出す光学顕微鏡観察法です。 振幅と位相の変化は試料の特性に基づいて発生します。 こうした変化は、光の散乱と吸収からくる輝度の差異として示されます。 位相差観察法が特に重要になるのは工業用顕微鏡による検査です。明視野観察法では見えない試料の形状や構造の多くが明らかになるためです。
明視野観察法による断面が研磨された金属の画像。位相差を用いない場合(上)と位相差を用いた場合(下)。 |
微分干渉観察(DIC観察法): 新しい位相差結像方法。 DIC観察法では、物体が側面から照らされたように人工的な陰影を付けてコントラストを強調します。 DIC観察法を実施するには、偏光を2つの直交する偏光に分割します。 試料面で空間的に移動された(せん断された)相互に干渉する光は、再び結合してから観察されます。 再結合時の2つの光の干渉は、光路の差異、屈折率の乗積、および幾何学的路程長に影響を受けます。 観察されるコントラストは、せん断方向に沿った路程長の傾度に比例し、立体感のあるレリーフのような外観になります。
明視野観察法による断面が研磨された金属の画像。DICを用いない場合(上)とDICを用いた場合(下)。 |