ヨーグルトの容器を開けたときに、ふたの裏にヨーグルトが付いている場合と付いていない場合があるのに気付きましたか?なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
答えは、ふたの撥水性レベルにあることが分かりました。撥水性が低いふたにはヨーグルトが付き、撥水性が高いふたには付きません。
撥水性は、食品包装に使用されるフィルムが特殊な機能を発揮するように、表面処理に付加されるさまざまな性質のうちのひとつです。食品包装には、以下のように多様な機能が求められます。
- 食品の鮮度と品質を維持する
- 消費者が扱いやすいようにする(包装の開け方など)
- 汚染物質耐性のある表面にする
食品包装に特定の機能(付着力の抑制による食品ロス削減など)を求める声は高まっています。それに伴って、包装技術も進化しています。フィルム表面に付加されるこれらの処理は品質チェックが必須で、検査では表面粗さの測定を行います。
3D共焦点レーザー顕微鏡で実施することが多い表面粗さ検査は、フィルム表面の微細な凹凸の粗さを測定し、それを数値化します。私が最近行った実験では、LEXT™ OLS5100 3D共焦点レーザー顕微鏡を使用し、2つの異なるヨーグルトのふたを使って、撥水性と表面粗さの関係を調べました。
以下の結果をご覧ください。
ヨーグルトのふたの表面状態を目視検査する
まず、OLS5100共焦点レーザー顕微鏡を使用して、ヨーグルトのふた裏の表面状態を3Dで目視検査しました。
ふたは複数のフィルム層から構成され、そのうちアルミニウム層に強力な反射性があります。フィルムの最も外側にある表面の形状を正確に把握するには、下のアルミニウム層からの強い反射に影響されないデータを得ることが重要です。高倍率の対物レンズを浅い焦点深度で使用すると、下の層からの強い反射の影響を抑えて、フィルムの最も外側にある表面のデータのみを取得できます。
OLS5100顕微鏡は、405 nmのレーザー波長に対応しており、収差を抑えるLEXT専用の対物レンズを使用します。このセットアップを使用すると、視野全体にわたり正確なデータを取得できます。
LEXT専用対物レンズ(左から右):低倍率対物レンズ10X、高性能対物レンズ20X、50X、100X、長作動距離用の対物レンズ20X、50X、100X。
3Dデータ収集によって、撥水性の高いヨーグルトのふたには、さまざまなサイズの球状集合体が表面に不規則に散在していることがはっきりと分かります。それに対して、撥水性の低いふたには目立った凸形状がありません。
OLS5100共焦点レーザー顕微鏡で取得した2つのヨーグルトのふたの3D目視データ。左:撥水性の高いヨーグルトのふた(50X対物レンズ、約250 µm)。右:撥水性の低いヨーグルトのふた(50X対物レンズ、約250 µm)。
撥水性の高い試料の表面状態を理解するため、ハスの葉とブロッコリーの表面を考えてみましょう。表面が水をはじき、水滴が流れ落ちるのを見たことがあるかもしれません。表面は、フラクタル構造という細かい不均一な形状になっています。この形状のおかげで、水をはじくことができます。フラクタル構造とは、相似な形がさまざまなスケールで見られる形状をいいます。
こうした自然の形状からヒントを得て、このフラクタル構造は高撥水性のヨーグルトのふたにも応用されています。上の例では、50X対物レンズを使用した1視野(約250 µm)のデータが示されています。
より広い視野での表面粗さデータの取得
次に、より広い領域からデータを取得し、この独特な凸形状が高撥水性のヨーグルトのふたの裏にどのように分布しているかを調べました。
ふた裏の最も外側にある表面のみのデータを取得するには、高倍率の対物レンズを使用するのが効果的です。しかし、1視野の範囲が狭すぎて、すべてのデータを取得できません。
OLS5100顕微鏡の貼り合わせ機能を使うと、高倍率の対物レンズで取得した個別の画像をつなげて、より広い視野の高分解能画像を作ることができます。
以下の画像で、1視野内に不規則に散在している凸状集合体の外観(右)が、視野が広がっても同様に分布している(左)のが分かります。凸状集合体はフラクタル構造になっています。
ヨーグルトのふたの表面状態を定量化する
上の画像は以下のことを視覚的に示しています。
- 高撥水性フィルムと低撥水性フィルムの表面状態は大きく異なる
- 高撥水性フィルムには凸状集合体が存在する
- 凸状集合体はフラクタル構造になっていて、複数の画像を貼り合わせて1つの広視野で観察しても、同様の凸状集合体が散在している
これらの結果に基づいて、2つのふたの表面粗さをOLS5100 3D共焦点レーザー顕微鏡で測定し、それぞれの表面状態を定量化しました。
一般に、粗さの評価には、1ラインデータを取得するスタイラスタイプの表面粗さテスターを使用することがよくあります。しかし、高撥水表面のように局所的に凸状が散在している形状の場合、粗さ値はスタイラスで引かれたラインによって大きく変わります。さらに、スタイラスとの接触によって試料が損傷し、測定時にリスクが示される場合があります。
それに対して3D共焦点レーザー顕微鏡では、接触することなく表面データを取得できます。{これはレーザービーム走査で行います。このプロセスでは、スタイラスの1ラインデータよりも多くの表面形状データを取得できます。
左:スタイラスタイプの表面粗さテスターによるデータでは、1ラインのみからの情報が提供されます。右:OLS5100 3D共焦点レーザー顕微鏡では、面全体の情報が取得されます。
広視野(約700 µm)から取得されたデータを、表面粗さ測定に使用しました。
表面粗さ測定に適したデータを取得するには、試料の表面機能に最も大きく影響する特徴的な凹凸形状要素を、10個以上含む視野で評価することが重要です。
このことを、上の高撥水性試料で考えてみましょう。1視野(50X対物レンズ、約250 µm)内に見えるそれぞれの凸状集合体が、撥水機能のある特徴的な形状要素だとすると、1つの広い視野に10個以上の凸状集合体を取得する必要があります。10個より多くの凸状集合体を収集するため、3 × 3の貼り合わせ画像による広視野データを使用して、表面粗さを評価しました。
2つのヨーグルトのふたの表面粗さ測定結果
50X対物レンズを使用し、3Dレーザー顕微鏡で2つのふた裏について以下の結果が得られました。
試料 | Sp [µm] | Sv [µm] | Sz [µm] | Sa [µm] | Sdq | Sdr [%] |
---|---|---|---|---|---|---|
高撥水性_50×z1_3×3 | 28.419 | 9.597 | 38.016 | 4.297 | 2.082 | 31.562 |
低撥水性_50×z1_3×3 | 2.044 | 7.434 | 9.478 | 0.471 | 0.127 | 0.561 |
注目すべきパラメーターは、Sp、Sz、Sa、Sdq、Sdrです。パラメーターの概要について説明します。
Sz(最大高さ)とSp(最大山高さ)
Sz値を見てみると、平均的表面からの不均一性の大きさが分かります。Szは最大山高さ(Sp)と最大谷深さ(Sv)の合計です。ここで注目すべきは、SpとSvで差が大きいのはSpのみである点です。この例の場合、データは、高撥水性のふたに平均的表面より多くの凸形状があることを示しています。
Sa(算術平均高さ)
Saは、平均的表面からの高さの差の平均値を示します。Sa値が大きい高撥水性のふたは、不均一性がより大きくなっています。
Sdq(二乗平均平方根傾斜)
Sdqは、表面の凹凸の局所勾配の平均サイズを示します。Sdq値が大きい高撥水性のふたは、不均一性がより大きく、表面の光沢が低減されます。
Sdr(界面の展開面積比)
Sdrは、表面積の増加率を示します。撥水性が高いほど、起伏が大きく、表面積が大きくなります。
表面粗さデータを活用したふたの撥水性の理解
高撥水性のふたの表面をフラクタル構造にすると、ヨーグルトとふたの接触面積が小さくなります。表面形状によって、ヨーグルトはフィルムに付かない液滴になります。接触面積の低下は、フィルムの表面積が大きく不均一であることを意味します。対照的に、低撥水性のふたの表面積は小さく均一であり、接触面積が大きくなります。ふたにヨーグルトが付くのは、接触面積が大きくなると付着力が高くなるためであると結論付けられます。
撥水性レベルと表面粗さデータの関係を以下に示します。
撥水性の高いヨーグルトのふた | 撥水性の低いヨーグルトのふた |
ヨーグルトとの接触面積: | 小 | 大 |
不均一性(Sp/Sz/Sa): | 大 | 小 |
不均一性の局所勾配(Sdq): | 大 | 小 |
表面積(Sdr): | 大 | 小 |