1986年4月26日の朝、現在のウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所で核爆発が発生し、火災、有毒ガス、そして大量の放射線漏洩を引き起こしました。 史上最悪の原子力事故の1つとされるチェルノブイリ原発事故は、今なお環境中の高レベル放射線が監視されており、科学的関心を集めています。
この事故による汚染地域の研究に努める研究者の1人が、 英国ブリストル大学のピーター・マーティン博士です。 彼は放射能汚染研究および除染のために、チェルノブイリ立入禁止区域内でハンドヘルド蛍光X線分析計(XRF)を使用するプロジェクトに参加しています。
このほど、私たちはピーターに話を伺う機会を得て、立入禁止区域、研究プロジェクト、そしてハンドヘルドXRF分析が彼らの目的にどのように一致しているかについて学びました。
チェルノブイリ立入禁止区域とは
チェルノブイリ立入禁止区域とは、チェルノブイリ原子力発電所の周囲19マイルの領域で、爆発による放射線と放射性降下物の影響を最も甚大に受けた地域を指します。
事故直後の1986年に指定されたこの区域は、危険区域へのアクセスが制限され、放射能汚染の拡散(物や人に不要な放射性物質が存在すること)を抑えています。
現在、この立入禁止区域は一部の観光客が立ち入れるようになっており、ピーター・マーティン博士のような研究者による研究が行われています。 区域の現状をピーターに尋ねてみました。
「チェルノブイリ立入禁止区域を訪れると、すべてがただ止まったような感じを受けます」とピーターは話します。 「金属でできたものはほとんどが錆びています。 野生動物は元に戻りました。 目に映る色は色あせかけ、 車は道に捨てられたままです。 ひどく陰鬱ですよ」
彼は、区域に大量の廃棄物と建築材料があると説明しました。 区域を埋め尽くす古い金属破片、廃棄自動車、漏れ出た燃料。立入禁止区域内にある多くの物は、手つかずで調査されないままになっています。 わかっているのは、この区域に高レベルの放射能が残っているということだけです。
放射線被ばくを制限するために研究者が取っている安全対策について、ピーターは次のように話します。
「研究者は線量計で放射線量を測定しています。 本当にたくさんの計器を身に着けるんです。関係する組織(大学、立入禁止区域、チェルノブイリ発電所)ごとに1台ずつ持って、放射線被ばく量を測定します。 線量は厳密にコントロールされているのです」
原子力施設における放射線分布図の作成
プロジェクトに関して、ピーターや他の研究者たちは原子力施設にあるさまざまな太さのパイプを見て、放射線の分布図を作成しています。 ただし、パイプの中身、用途、放射能汚染度についてはわかっていません。
彼らの原子力に対する経験から、パイプの廃棄に関する計画はありません。 代わりに、巡回ロボットを使用してパイプ内に入っています。下のビデオで紹介されているロボット犬などです。
現場で見つかった汚染物質を分類・分別する上では、ハンドヘルドXRF分析計もプロジェクトの重要な役割を果たしています。
チェルノブイリにおけるハンドヘルドXRFを使用した放射能汚染のモニタリング
チェルノブイリプロジェクトの主な目的は、放射能汚染の測定と低減ですが、ハンドヘルドXRFはそのために役立つ機器であることが明らかになっています。
「XRFは、汚染モニタリングのために集めた物質を分析するのにとても便利です」とピーターは言います。 「放射線で電子機器が壊れるまで、非常に高い放射線レベルに曝されざるを得ません。 炉心の外側にあるものがすべて、放射線による制限を受けるわけではありません。 チェルノブイリの中心部では、石棺の除去に取り掛かろうとしています。 そこはまだ放射線のある場所です」
ピーターと彼のチームはVanta™ ハンドヘルドXRF分析計を使用して、チェルノブイリ施設にあるさまざまな物、表面、土壌をモニタリングし、元素組成と放射性元素の有無を判定しています。
ハンドヘルドXRF分析計では現場ですぐに分析結果が得られるので、ラボに送る試料が少なくて済みます。 通常、チームが実施する分析は、5日間の滞在期間で約100回に上ります。 計画、装備、試料の返送の必要性を考慮すると、ピーターとチームメンバーが立入禁止区域を訪れるのは年に2回です。
ピーターたちはVanta分析計を3ビームGeoChemモードで使用して、特定の元素の割合を測定しています。 一部の品目は百万分率(ppm)で測定します。 セシウム元素は特に重要なので、千分率(ppt)で測定します。
分析対象品目には以下が含まれます。
- 放射能を帯びたパイプ
- 地面のがれき:セシウムからウランまでのすべてとプルトニウム
- 土壌:重金属汚染の評価
研究者たちはチェルノブイリでXRF分析計を使用して土壌を検査します。
土壌を分析するには、1フィート(0.3 m)掘り返します。 ほとんどの放射線は、地表から数インチ内にとどまっています。
ピーターは言います。「セシウムは地表から数センチメートルに取り付いています。粘土が放射線をため込むのです。 とても粘着性があります」
ハンドヘルドXRFとラボ検査を組み合わせた放射能汚染測定
ハンドヘルドXRF分析計は、その携帯性のおかげで、土壌、岩石、鉄鋼、建築材料、車、地面から突き出た金属など、さまざまな品目を現場で測定できる便利なツールです。 放置されたヘリコプターや配管など、検査対象物の多くは簡単に運び出すことができません。
研究者たちはチェルノブイリ施設でさまざまな対象物の放射能汚染を検査します。
現場でのサンプリングが終わると、小さい試料は詳細な検査のために英国に持ち帰ります。 しかし、立入禁止区域から試料を持ち出すのは厄介な作業です。ウクライナから試料を持ち出すには、約9か月もかかります。
空港で足止めになる試料さえあります。 放射性物質は危険物質と分類されるため、試料は貨物航空の特別機で運ぶ必要があります。
さらに、立入禁止区域内の品目は持ち出しが禁止されているため、この区域から汚染された試料を持ち出すための特別な許可が必要です。 許可が下りれば、試料はウクライナのキエフに送られ、そこから英国へと輸送されます。
チェルノブイリでの試料準備と放射性品目の廃棄
ピーターのチームは、土壌試料をサンプリング用スプーンで使い捨てのペトリ皿に載せます。 XRF分析計で検査するために、平らな場所に試料を置きます。 金属試料を検査する場合、建築材料、パイプ、階段などの金属では、XRF分析計を直接上にかざします。
検査対象物には、ガスマスクや長靴など、土壌に埋もれかけていた変わったものもあります。 これらの品目が放射性物質を離さない、ということなどを学びました。 元素、特にセシウムは、これらにくっついています。
私たちはピーターに、作業中に見つけた最も興味深いことについて尋ねました。
「コパチ区域では、線量計が特に高い線量エリアを示します」とピーターは言います。 「そこでは高放射線量を示す砂粒を拾うことができます。 私たちはこの黒い砂をカプトンテープに取りました。 砂粒は10分以内に年間被ばく線量の限度を示しました」
ピーターは説明します。「この砂粒は、実は事故で吹き飛ばされた原子炉のかけらで、環境内で今なお見つかります。 砂粒の一部は、グラファイト、炭素、ウランからできています」
このように高い線量の放射性物質が発見されると、チームはそれを固定化して、放射性廃棄物の処分場に廃棄します。
ピーターは言います。「大きなコンクリートの塊に混合してから廃棄しています」
今回の情報を オリンパスチームと共有してくださった、ピーター・マーティン博士と彼のチームに心から感謝します。