A:トータルフォーカシングメソッド(TFM)は従来のフェーズドアレイ(PAUT)とステアリングとフォーカシングの方法は基本的に同じですが、焦点化が一定の深さだけではなく、関心領域(「TFMゾーン」)のあらゆる場所に適用される点が異なります。 TFMは関心領域のすべての位置で集束された音響ビームを物理的に発射することで実行できますが、収集サイクルを完了させるには極めて長い時間がかかります。
非破壊検査(NDT)で使用する音波は直線状なので、送受信において特定のビームを生成する音波の物理的な重ね合わせ(ビーム形成)は、データ収集後のビーム合成によって複製できます。 物理的なビーム形成に対応するTFMビーム合成を実行するには、プローブの送受信開口部から基本的なA-スキャンをすべて収集する必要があります。 すべての集束ビームを計算するには、この基本A-スキャンの完全なデータセットが必要です。 このデータセットを収集するために、フルマトリックスキャプチャ(FMC)によるデータ収集を行います。
A:まずユーザーはTFMゾーンを区切るパラメーターを入力します。TFMゾーンとは、検査対象域、つまり関心領域(ROI)のことです。 TFMゾーンがグリッドに分けられ、グリッド内の各位置(ピクセル)のサイズ(グリッド解像度)はユーザーが決定します。 FMCデータを理解するため、TFMアルゴリズムは音響伝搬モードや分解能などの重要な変数を入力して、データを波形セットに分類します。 例えば、TT-Tの波形セットは、送信された横波が内部の表面で反射した後、ROIの各ピクセルに到達し、各ピクセルから受信素子への直接経路の横波として伝搬します。
TFMゾーンパラメーターの設定
A:フルマトリックスキャプチャ(FMC)音響データ収集では、FMCデータセットが得られます。 FMCデータセットとは、フェーズドアレイプローブまたは配置された複数プローブの各素子からの発信によって取得される、基本的な受信A-スキャンのすべての組み合わせを集めたものです。 この方法では、プローブの各素子から連続して照射する一方で、その他すべての素子は戻ってきた音響ビームを受信します。
処理におけるFMCとTFMについてビデオをご覧ください。
FMCデータセットにはあらゆるビーム形成方法を適用することができます。 FMC生データ(基本A-スキャン)を使用して、標準のフェーズドアレイ(PA)データ収集を合成的にエミュレートすることもできます。 ただし、PAによるビーム形成方法では、試験体の特定の深さのみにビームを集束しますが、TFMでは関心領域(「TFMゾーン」)全体の音響振幅を表示でき、領域内のすべてのピクセル位置が集束されます。 完全に集束された関心領域を収集できることが、FMCデータの処理にTFMを使用する主な理由です。
反対に、NDT用途に対応する速さでTFM画像を取得するには、FMCのデータ収集法を使用する必要があります。 TFM画像を計算するには、開口幅の基本A-スキャンの完全なセットが必要です。 同一のFMCデータセットが、異なる波形セットを示す複数のTFM画像のソースとなる可能性があります。
A:この投稿日現在では、不可能です。 ただし、オリンパスではOmniScan X3シリーズ用の新たなソリューションを継続して開発していますので、ご期待ください。
A:いくつかのモード(波形セット)で、縦方向の反射源に対する表示が良好になる傾向があります。 TTT-TTまたはTT-T波形セットを使用してセルフタンデムモードで始めることをお勧めします。 ただし問題は、1つの波形セットが表示するのは一般に縦方向の反射源の一部だけであることです。 TL-Tなどの追加の波形セットは、選択された最初のモードによって取得された画像で表示できない部位を画像化する補完的な活用で役立ちます。T-TやTT-TTなどのパルスエコー波形セットは、コーナートラップエコーや回折端部の検出に使用できます。
適切なイメージングと検出に役立つ1つの方法は、各伝搬モードの特徴と、長所、短所を完全に把握するために、超音波探傷器OmniScan™ X3のAcoustic Influence Map(AIM)機能を実験的な検証とともに使用することです。 期待される結果を得るには、検査対象の素材の厚さと速度を正確に評価する必要があります。セルフタンデムモードの使用は難しい場合があることに留意してください。
Acoustic Influence Mapの詳細は、ホワイトペーパー「TFM Acoustic Influence Map」をご覧ください。
A:残念ながら、水柱が一定である非常に特殊な用途を除き、使用できません。 HydroFORMスキャナーはトータルフォーカシングメソッドで使用することはできません。 水と検査対象の素材との音速差のため、非常にわずかな水柱の変化が、素材内の比較的大きな超音波経路の偏差につながります。 例えば、0.5 mmの水柱の移動は最終的に2 mmの炭素鋼の経路差に対応し、TFMの集束能力に悪影響を及ぼします。 ただし、新しいソリューションを継続的に開発中ですので、ご期待ください。
A:TFMエンベロープを使用する最も明らかな利点は、自然振動する音波A-スキャンを基本データセットとして使い振幅振動を切り捨てることです。 振動から解放されるため振幅が連続的になり、サイジングしやすくなります。
さらに、TFMエンベロープ画像は標準振動TFMより速いデータ収集速度で取得でき、振幅忠実度(AF)値は同じままです。 以下の例では、エンベロープがオフ(上)の場合とオン(下)の場合の高温水素浸食(HTHA)欠陥を示しています。 TFMエンベロープ機能がオンの場合、グリッド解像度は粗い場合があるものの、振幅忠実性は2 dB未満(標準許容誤差)を保ち、データ収集速度は加速しています。 この2つの画像を比較すると、エンベロープをオンにした方が欠陥エコーを識別しやすくなっています。 振動に対してより安定していることから、TFMエンベロープ画像では欠陥の識別と振幅ベースのサイジングが容易になります。
TFMエンベロープの詳細は、ホワイトペーパー「エンベロープ機能を利用したトータルフォーカシングメソッドの使用」をご覧ください。
HTHA欠陥の標準TFM画像(グリッド解像度0.07 mm、AF 1.7 dB、データ収集速度10.6 Hz)
HTHA欠陥のTFMエンベロープ画像(グリッド解像度0.15 mm、AF 1.9 dB、データ収集速度19.5 Hz)
A:これは、TFMイメージングがFMCデータを使用して行われるためです。 OmniScan X3シリーズの探傷器におけるFMCデータ収集は、必要な場合に2セットに分割できます。例えば、64チャンネル探傷器(OmniScan X3 64モデルなど)で128素子を含むフェーズドアレイプローブを使用する場合です。
仕組みとしては、まず探傷器が単一素子をパルス発信させ、戻ってきた超音波を素子の最初の半分で受信します。 次に、その素子をもう一度発信させて、今度は素子の後半で受信します。 この二重発信シーケンスをプローブ内のすべての素子で繰り返すことで、全素子からデータを高速で収集します。
TFMをPAと比較するために、先ほどのOmniScan X3 64探傷器と128素子プローブの例で考えます。 PAデータ収集モードでは、一度に発信/受信できるのはプローブの64素子のみです。 PAの信号処理は、探傷器のチャンネル数(この例では64)に制限されます。 TFMのデータ処理はFMCデータに基づいて行われるため、プローブの128素子すべてを使用してデータを収集でき、PAと比べて開口幅が実質的に倍になります。
A:この投稿日現在では、AIM機能(Acoustic Influence Map)はTFMモードでのみ使用可能です。 ただし、新しいソリューションを継続的に開発中ですので、ご期待ください。
A:ピクセル数が非常に多い(グリッド解像度が高い)とTFM画像が改善される可能性がありますが、処理の負荷によりデータ収集速度が低下します。 ユーザーは、効率を損なわない高い検出力と特性評価力を持つ「スイートスポット」(最適な妥協点)をターゲットにする必要があります。 OmniScan X3シリーズ探傷器は、横波(T波)と縦波(L波)の両方について、試料のプローブ中心周波数に応じてグリッド解像度を分析できる有用な測定値を提供します。 別の測定値は、選択された音響モードとグリッド解像度に応じた振幅忠実度(AF)の理論値を提供します。 いくつかの新しいFMC/TFMの規格および標準では、オペレーターがグリッド解像度を定義して2 dB以下のAF値を取得する必要があるため、この測定値は非常に役立ちます。 オペレーターはAF値を実験的に測定する面倒なプロセスを回避できます。
A:パルスエコーは、送信ビームと受信ビームが試験体内でまったく同じ経路をたどる伝搬モードです。 パルスエコーモードは直接の経路(スキップなし)または複数のスキップで実施できます。 これらは伝搬経路の各レグの縦波または横波(LまたはT)による音波のモードで定義されます(L-L、T-T、LL-LL、TT-TTなど)。
セルフタンデムモードの送受信伝搬経路はぴったり一致しませんが、送受信素子は同じフェーズドアレイプローブ上にあります。 最も単純な形では、伝搬経路(送信または受信経路)の1つのセグメントが試験体の底面部でスキップし、もう一方の伝搬経路(それぞれ受信または送信経路)が直進します。 両方の経路が交差する点に検出ゾーンが発生します。 パルスエコーモードと同様に、セルフタンデムモード(波形セット)は伝搬経路の各レグの音波モードによって定義されます(TT-T、TL-Tなど)。 セルフタンデム伝搬モードには、複数のスキップがある波形セットも含まれます(TTT-TTなど)。
標準的なパルスエコー伝搬経路(左の3画像)とセルフタンデム伝搬経路(右の画像)
ピッチキャッチモードはセルフタンデムモードと同様の定義ですが、送受信素子が2つの異なるフェーズドアレイプローブ上にある点のみが異なります。
パルスエコーモードとセルフタンデムモードはTFM特有ではありません。従来型のフェーズドアレイやトータルフォーカシングメソッドでも使用できます。
パルスエコーTFMでは、試験体の厚さの変化は、底面エコーと内面に開口した欠陥表示の位置にのみ影響します。 パルスエコーTFMモードとは反対に、セルフタンデムTFMモードでは試験体の厚さのわずかな変化に非常に敏感です。送受信の焦点の重なり具合が少ないためです。 厚さのばらつきがわずか5%程度でも、セルフタンデムTFM検査の「焦点が合わない」可能性があるため、実際の対象物の厚さを正確に測定することが重要です。
A:もちろん可能です。 PAUTの場合と同様に、ウェッジの有無にかかわらずTFMでプローブを使用できます。
A:TFMの「エンドビュー」の横に表示されるAスキャンは、FMCの基本Aスキャンデータセットからではなく、再構成されたTFM画像から生成されます。 TFM Aスキャンは、選択/表示されるピクセル振幅のマトリックスを表します。 TFMのAスキャンがPAUTで得られるような合計されたAスキャンではなく、合成Aスキャンと呼ばれるのはこのためです。
A:トータルフォーカシングメソッドがPAUTよりも優れているかどうかは、用途やお客様の好みの問題でしょう。 リンゴを選ぶか、オレンジを選ぶかは好みの問題です。 アップルパイを作れるリンゴを選ぶ人もいれば、ジュースにできるオレンジを選ぶ人もいます。 PAUTとTFMの原理の違いを以下にまとめます。