工業用内視鏡は人の目で直接観察できない状態における目の代わりをする器材である。製造業における機械加工後の状態検査、メンテナンスにおける非破壊(非分解)検査による工数、経費の節約など、幅広い分野で産業の底支えをしている。
検査対象物に目を向けると、エンジンの燃料噴射バルブのような小さな部分から、燃料タンクのような大型設備、原子力発電所の格納容器まで大小さまざまなものを見ている。
当社では、医療用の内視鏡技術を元に産業向けに特化した製品を工業用内視鏡として製造、販売している。大きく異なる部分として以下の3項目があげられる。
1は挿入部材料を、臓器を傷つけない樹脂系にするか、機械部品への耐久性で金属系にするという対処法があり、2では人間用は大腸用の2.7mが最長であるのに対して産業用では最長30mまでラインナップしている。ところが、3の大きさに関しては難しい課題がある。照明の強さ、届く範囲である。臓器や小部品などであれば既存の照明部品を応用加工すれば観察可能であるが、タンクのような大空間では桁違いの強い照明が必要である。
内視鏡は、そもそもがサイズの限られた機器であり、大きなランプ類を組み付けることができない。外径6mmの内視鏡であれば観察用レンズと照明を設置するため、照明部分はせいぜい1mm幅程度しかとれない。しかも観察範囲を広く取るため超広角レンズを使用しており、画面全体に一様な明るさを得るためには拡散光にしなければいけない。 光の強さ(照度/lx = E)は「距離(d)の二乗に反比例して暗くなる」ため、ある距離の強さを1としたとき、2倍の距離なら1/4に、3倍の距離では1/9に劇的に落ちる。
E=1/d²
従来のLED光源では、輝点がライトガイド端面に対して大きく、照明光の効率的な入射伝導させることが難しかった。
オリンパスは創業以来98年間光学に特化して築き上げたノウハウを有している。顕微鏡、内視鏡、カメラレンズをはじめとした光学設計、精密加工、組み立て加工技術は最新技術と匠の手による技術伝承が融合して初めて成し遂げられるものである。 今回のIPLEX NXでは、照明技術の革新が大きく寄与している。
1. 光源出射側対策では、装置本体に強力な白色光源* を入れることで設置スペース対策と照明パワーの大幅な拡大ができた。
*白色光源:蛍光体にレーザーをあて励起させることで白色光(インコヒーレント光)を出射
また、直径約1mmのライトガイドに効率的に光を入射させるため、白色光源とライトガイドの間にマイクロレンズを設置することでライトガイドへの入射効率を3倍以上にあげた。
2:照明用対物レンズは、各レンズの画角に合わせて拡散光角度を設定している。従来はカバーガラス裏面にボールガラスを貼り付けることで屈折率を稼ぎ拡散照明していたが、これではボールガラスの形状による乱反射屈折があり、出射照明方向にロスが大きかった。
IPLEX NXではボールレンズの代わりに精密加工技術によるガラス成型レンズを組み合わせることで、計算された効率よい照明が可能になった。これによる出射効率は従来の2倍に向上できた。
ガラス成型レンズ拡大写真
この結果、既存の内視鏡製品と比較して約5倍の光量を得ることができ、タンク形状のような大型被検体の観察が格段に明るくできるようになり、細かな不具合の発見率向上にも寄与している。
オリンパスの工業用内視鏡は、光学メーカーだからこその視点とノウハウをフルに結実させた製品である。観察対象物の条件が厳しくなればなるほど、上述したノウハウを活用して産業界の顧客の要望に応えて技術革新を続けていく所存である。