本記事では、ハンドヘルド蛍光X線分析計をRoHS指令準拠のためのソリューションとして紹介します。欧州連合(EU)でのRoHS指令に基づく有害物質規制では、電子・電気機器に含まれるカドミウム(Cd)、鉛(Pb)、水銀(Hg)、六価クロム(Cr6+)、2種類の臭素(Br)化合物(PBBとPBDE)の含有量を制限しています。
医療機器は、2011年7月の改正版の発行までは、RoHS指令の適用の対象外でした。しかし、2014年7月以降は、医療機器業界のサプライチェーン全体にわたって規制が適用されることになります。
課題
RoHS規制違反によるリコールが発生すれば、直接的な損失を招くとともに長期にわたってブランドイメージを大きく傷つけることになります。メーカーは、発売後の利益を見込んで、数ヶ月から数年の時間をかけて新製品を開発しますが、その際、サプライチェーンの全体にわたってRoHS指令を遵守するための対策が必要になります。
他の多くの業界と同様、医療機器メーカーのサプライチェーンは非常に複雑で、専用に設計された何百、何千という部品を供給する複数の業者が関与しています。RoHS指令ではサプライチェーンのトレーサビリティを要求し、RoHS指令を遵守する代替方法や代替品を見つけることを求めているため、サプライチェーンの管理課題は複雑なものになります。
このため、医療機器メーカーには、欧州のRoHS指令に適応し、サプライチェーン全体で適切に機能する有効かつ簡素なコンプライアンスソリューションが必要です。
ソリューション
医療機器メーカーにとって幸いなことに、家電業界の主要企業数社が共同で、国際電気標準会議(IEC)において、RoHS-1指令(2006年7月1日施行)に適合する方法で規制物質のレベルを特定するための世界共通の測定方法を、既に開発しています。公表された国際規格のIEC 62321には、蛍光X線分析法を使用した非破壊スクリーニング手順が含まれています。この手順は、2014年7月22日に適用開始されるRoHS-2指令により、医療機器メーカーにも適用されます。
ハンドヘルド蛍光X線分析計によるスクリーニング
電気および電子機器に使用されている鉛(Pb)、水銀(Hg)、クロム(Cr)、臭素(Br)、カドミウム(Cd)などの規制物質のハンドヘルド蛍光X線分析計によるスクリーニングは、リスク管理およびRoHS指令遵守の両面で、容易かつ高速で費用対効果の高い手法です。メーカー、政府の規制機関、サプライチェーンのさまざまなレベルにおいて、この使いやすいスクリーニング手法が利用されています。医療機器メーカーは、RoHS-2指令を遵守するため、合否を判定する際の一手法として、ハンドヘルド蛍光X線分析計によるスクリーニング手順を採用することができます。
RoHS指令では、欧州が輸入する電気および電子医療装置は、0.1%を超えるレベルのPb、Hg、Cr6+、特定のBr化合物(PBBおよびPBDE)や0.01%を超えるレベルのCdを含有することはできません。ハンドヘルド蛍光X線分析計の検出限界(LOD)は元素によって異なりますが、RoHSに準拠したスクリーニングに求められるレベルに十分に収まります。はんだ等の金属材料中におけるCdやCrの合否レベルをさらに厳しい独自基準で設定するために、ハンドヘルド蛍光X線分析装置の上位機種仕様が必要となることもあります。
RoHS指令に準拠するための測定手法を実施することにより、規制物質の管理とともに測定対象物の成分データをナレッジベースとして蓄積できます。これらの成分は、ほとんどのメーカーにおいて、リスク管理の一部として定期的にスクリーニングされています。
ハンドヘルド蛍光X線分析計の測定値の理解
オリンパスは、スクリーニングを容易かつ高速なものにするために、RoHS規制物質のスクリーニングに効果的な機能を組み込みました。DELTAは、測定対象の母材が、金属、ポリマーあるいは混合材質かによって適切な測定アルゴリズムを適用し、検出元素の濃度値を結果表示するとともに、RoHS規制基準あるいはユーザーが独自に設定した基準によって合否判定を行なうことができます。また、測定結果データやスペクトルとともに内蔵カメラで撮影した測定スポットの画像を、1枚の検査結果レポートにして出力することができます。
小片試料および試料上の小スポットを測定できるハンドヘルド蛍光X線分析計
オリンパスの蛍光X線分析計は、小径スポットコリメーターを備え、直径約3mmの領域に絞ってビームを当てることができます。測定画面に表示される測定エリアは、メモリに記憶されて、測定後のレポート作成の際に使用できます。
ハンドヘルド蛍光X線分析計を用いた規制物質測定
ハンドヘルド蛍光X線分析計では、試料の前処理をしなくても、有害金属および有害元素を識別でき、迅速に明白な測定結果が得られます。ハンドヘルド蛍光X線分析計は、安全を確保するために、また、EPA、RoHS/WEEEの実施団体、CPSC、FDA、国境警備機関などが指揮するグローバルな規制に準拠するために、世界中で使用されています。
医療機器には、コンピュータ、モニター、電源、機械部品、プラスチック部品、ケーブル、集積回路などが組み込まれています。ハンドヘルド蛍光X線分析計は、鉛(Pb)、水銀(Hg)、クロム(Cr)、臭素(Br)、カドミウム(Cd)などの規制物質を高速かつ容易にスクリーニングできる費用対効果に優れたリスク管理ツールです。
他の業界同様、医療機器メーカーは、多数の供給業者と長年にわたり関係を築いてきました。RoHS-1準拠の経験から得られる重要な教訓は、「信頼はするが検証する」ということです。この哲学は、製品や供給業者が新しいものであれ、既に確立されているものであれ、サプライチェーンのすべての利害関係者が安心してRoHS準拠製品を流通させる上で役立ちます。
蛍光X線分析計によるスクリーニングから得られるサプライチェーンの利益
- 危険な部品や信用できない供給業者を特定できます。
- 規制に準拠していない可能性のある製品の供給源を排除します。
- 疑わしい試料だけをラボに送るだけで費用を低減できます。
- 危険な供給源を製造の早い段階で特定することによって、法的問題や高額な罰金を最小限に抑えたり、回避したりすることができます。
蛍光X線分析計のスクリーニング技術
エネルギー分散型蛍光X線分析法(EDXRF)は、元素分析の手法です。小型X線管は、Pb、Hg、Cr、Br、Cdなどの元素が内殻軌道の電子を放出するのに十分なエネルギーを供給して、物質を原子レベルで励起させます。一方、検出器は、安定性を回復するために元素の外殻軌道の電子が軌道レベルを遷移するときに放出される元素固有のエネルギーを測定します。検出されたエネルギー値(keV)から、どの元素が物質に含まれているのかが明らかになります。また、エネルギーの強度(カウント数/秒)は、物質内の元素濃度と相関があります。