メーターカバー(赤枠のような箇所の表面を測定) |
アプリケーション_スピードメーターカバーの粗さ評価
ディスプレイは日常様々なシーンで幅広く利用されています。表示されている内容は樹脂製、ガラス製のパネルやフィルター越しに見ることが一般的ですが、目視する環境下によっては表示光のぎらつきやディスプレイ表面への映り込みが邪魔をして視認性を低下させることがあります。これらの問題を軽減させるために、パネルやフィルター表面に微細な凹凸をつけることによりアンチグレア(AG)と呼ばれる防眩性機能を付加します。
防眩性機能を持たせたパネルやフィルターの機能評価は目視による主観評価が一般的ですが、個人差が生じやすく定量的な評価が難しいという問題があります。一方、様々な定量評価も試みられておりその一つに粗さの測定があります。なかでも算術平均高さ(Ra、Sa)は粗さの評価では最も広く利用されるパラメーターの一つで、測定対象領域において平均面からの高低差の平均を表すため、面内の傷やゴミなどの外乱の影響を受けにくく再現性の優れた評価が可能なパラメーターです。その反面、表面の三次元的な凹凸形状を視覚的に比較した場合には明らかな差異がある試料同士であっても、値にはほとんど差異が出ない結果になることも多く、必ずしも表面の特徴を捉えきれないという側面も持つパラメーターです。
また、Raを測定する接触式粗さ測定機は一般的に広く使われていますが、1ラインの断面のみの測定で情報量が少ないことや、スタイラス先端の針径よりも微細な凹凸形状があると正しく測定できないという課題もあります。
オリンパスのソリューション
3D測定レーザー顕微鏡LEXTによる画像観察と粗さ測定
3Dレーザー顕微鏡LEXT OLS5000で解決できること
① 微細な粗さを高精度に測定できます
オリンパスLEXTは測定に波長405nm/直径0.4umのレーザー光を使用しています。レーザー光径は従来の接触式粗さ測定機のスタイラスの先端径よりもはるかに小さいため、パネル表面のより微細な凹凸形状を捉えることができます。
接触式粗さ測定機 | レーザ顕微鏡 LEXT |
光学式の非接触測定なので試料表面を傷つけることもありません。
接触式粗さ測定機は計測プローブで測定面をトレースした1ラインだけの情報しか取得することができません。
LEXTはレーザー光をスキャニングして面としてのデータを得る事ができます。これは1ラインだけの情報に比べて圧倒的に多くのデータを得ることが可能です。
接触式粗さ計による1ラインの断面データ | レーザースキャンによる面粗さ情報 |
これらの特徴を備えたLEXTで、表面にAGコートを施した自動車のスピードメーターカバー(防眩性の高いタイプ/低いタイプ)の凹凸形状を取得してみました。これはレーザー顕微鏡による高さ像とよばれる像で白い部分ほど高く、黒い部分ほど低いことを表します。1ラインの断面プロファイルのみの接触式粗さ測定機のデータに比べ、このように面での広い凹凸形状の情報が取得できます。
防眩性高 | 防眩性低 |
上の2つの像は視覚的に明らかな違いが見て取れます。
ではこの2つの凹凸像を面粗さ測定による定量評価をするとどうなるでしょうか。
-まずは算術平均高さ(Sa)についてみてみます。
防眩性高
防眩性低
汎用的に使われているSaはほとんど差がでていません。
-次に自己相関長さ(Sal)*1に着目してみます。
防眩性高 | 防眩性低 |
*1 自己相関長さ Sal:筋目や粒子など表面の凹凸形状の密集度合いを長さの単位で数値化します。つまり凹凸形状の「高さ方向」ではなく、「横方向」に着目したパラメーターです。値が小さいほど表面は急峻で値が大きいほど緩やかな凹凸形状が支配的といえます。自己相関とは、凹凸画像それ自身を横方向(x、y)にシフトさせたとき、シフトさせた画像が自身の画像にどれだけ似ているか(かけ離れているか)を示す尺度のことです。
Salには二つのデータ間で大きな差が表れていることがわかりました。防眩性が高いコートの方が数値が小さく急峻な凹凸形状が多い(=密集度合いが高い、目が細かい)ことがわかります。
-その他、二乗平均平方根勾配(Sdq)*2や展開界面面積率(Sdr)*3はどうでしょうか。
*2 二乗平均平方根勾配Sdq:局所的な勾配の平均値を表すパラメーターで、表面の凹凸の険しさを示します。
*3 展開界面面積率Sdr:表面積の増加割合を表すパラメーターで、表面形状が緻密で起伏が激しいほど値は大きくなります。
防眩性高 | 防眩性低 |
Sal以外にも目の細かさを表現する間接的な評価指標としてこれらのパラメーターに着目することで差が表れていることがわかりました。局所的な勾配の傾斜角や表面積率の値が大きいほど目が細かいと言えます。
これまでのパラメーターをまとめると以下のような関係になります。
このように凹凸像の見た目の違いは面粗さ測定という定量評価において、高さ方向のパラメーター(Sa)では差異が見られなくとも、横方向の大きさ(Sal)や局所的勾配(Sdq)や表面積率(Sdr)など別の指標のパラメーターに表れていることがわかります。
② レーザー微分干渉が可能です
レーザー顕微鏡の最大の特徴は同一領域内で前述の凹凸像(高さ像)の他に、試料からの反射するレーザー光の強弱を表した輝度画像を取得できることです。レーザーは単一波長なので得られる情報はモノクロの輝度情報となりますが、共焦点光学系の作用により、ボケ画像の重畳しない高いコントラストの画像が得られます。試料表面にナノレベルの微細な凹凸が存在する場合、この高コントラストな像に微分干渉(DIC)観察をプラスすることで、電子顕微鏡の分解能に迫るさらにコントラストの高いクリアな像が得られます。通常の輝度画像でも可視化が難しい微細な凹凸も光学的に観察できるので、画像を取得せずともリアルタイムで観察することもできます。
防眩性高 | 防眩性低 |
通常の輝度画像 |
DIC輝度画像 |
まるで同一領域を観察しているとは思えないほど、DIC観察を加えることでパネルの微細な凹凸が可視化でき試料間の表面状態の違いが明瞭に見て取れます。