ジェット旅客機には、ターボファンエンジンが搭載されている。ターボファンエンジンは工業用内視鏡を使って定期的に目視検査できるように設計されており、定期検査を行う部位にはアクセスポートという内視鏡を挿入するための孔が設けられている。
ターボファンエンジンの基本構造
エンジンサイズ | 製造メーカー | エンジンモデル | 主な搭載機 |
小型 | ゼネラル・エレクトリック | CF34 | CL-601/604/605、CRJ 100/200/440/700/900/1000, エンブラエル E-170/175/190/195 |
GEホンダ | HF120 | ホンダジェット, スペクトラム S-40フリーダム | |
ハネウェル | HTF7000 | Avro RJX, チャレンジャー 300, エンブラエル・レガシー 450/500 | |
TFE731 | サイテーション III/VI/VII, ファルコン 10/20/50/900, ガルフストリーム C-38クーリエ/G100/G150, ホーカー 800/900, リアジェット 31/35/40/45/55 | ||
プラット・アンド・ホイットニー・カナダ | JT15D | ビーチジェット, サイテーション V, ホーカー 1000 | |
PW300 | ファルコン 7X/2000EX/2000DX/2000LX, ガルフストリーム G200, ホーカー 1000/4000, リアジェット 60/85 | ||
PW500 | サイテーションAvenger/Bravo/Excel/V | ||
PW600 | エンブラエル・ファントム 100, エクリプス 400/500, サイテーション・マスタング | ||
ロールス・ロイス | AE3007 | サイテーション X, エンブラエル ERJ145, エンブラエル・レガシー 600 | |
ウィリアムズ | FJ44 | ビーチクラフト Premier I, サイテーションCJ1/CJ2/CJ3, EV-20 バンテージジェット, Grob G180 SPn, スケールド・コンポジッツ, Sino Swearingen SJ30-2 | |
中型 | CFMインターナショナル | CFM56 | A318, A319, A320, A320, A340, B737 |
インターナショナル・エアロ・エンジンズ | V2500 | A319, A320, A321, B717, MD-90 | |
プラット・アンド・ホイットニー | JT8D | B737, DC-9, MD-80 | |
PW1000G | A320neo, MRJ | ||
ロールス・ロイス | BR700 | B717, ボンバルディア・ゴールドエクスプレス, ガルフストリーム V | |
Tay | B727, フォッカー 70/100, ガルフストリーム G350/G400/G450/IV/X-54 | ||
大型 | エンジン・アライアンス | GP7000 | A380 |
ゼネラル・エレクトリック | CF6 | A300, A310, A330, B747, B767 | |
GE90 | B777 | ||
Genx | B747, B787 | ||
プラット・アンド・ホイットニー | JT9D | B747, B767 | |
PW2000 | B757 | ||
PW4000 | A300, A310, A330, B747, B767, B777 | ||
ロールス・ロイス | RB211 | B747, B767 | |
Trent 500 | B340 | ||
Trent 700 | B330 | ||
Trent 800 | B777 | ||
Trent 900 | A380 | ||
Trent 1000 | B787 |
ターボファンエンジンの目視検査
1. 小型エンジン検査
AE3007やCF34など、リージョナルジェットやビジネスジェットに採用されている小型ターボファンエンジンの場合、アクセスポートの大きさに制約があり、4mm径の工業用ビデオスコープIPLEXが使われている。コンプレッサーやタービンブレード検査には、AT120S/FFタイプの光学アダプターが汎用的に使われる。また燃焼管の検査には、一般的にAT120D/FFタイプの光学アダプターが使われる。一方、燃焼管内の微細なクラックを確認する場合は、AT120D/NFタイプの光学アダプターで近づいて拡大観察をすることが出来る。
2. 中型エンジン検査
CFM56とV2500などの中型ターボファンエンジンの場合、コンプレッサーやタービンブレードの検査は6ミリ径の工業用ビデオスコープIPLEXにリジッドスリーブを取り付け、硬性鏡のような形状にして使用されている。 低圧コンプレッサーブレードはサイズが大きく、大きい空間での検査になるので、AT120D/FFタイプの光学アダプターを使う方が検査しやすい。ただし、ブレードが長く、ブレードの根元から先端を一望することは出来ないため、根元、中間、先端と数回に分けて検査している。
一方、高圧コンプレッサーブレードはAT80SタイプやAT120S/FFタイプの光学アダプターが好んで使われる。コンプレッサーの後半ステージはブレードサイズが小さくなるので、特に画角 が120°と広角のAT120S/FFタイプなら、根元から先端まで一望することが出来、検査効率が向上する。
中型エンジンの燃焼管のほとんどはアニュラ構造で、比較的大空間になっているため明るい画像での検査が必要になる。AT80D/FFタイプやAT120D/FFタイプの光学アダプターが検査に適している。IPLEXはスコープ部分が軟らかく、ドーナツ状の燃焼管内部にスコープを押し込み挿入することで、燃焼管内部をぐるりと一周させて全体を観察することが出来る。しかし、検査したい部位までスコープ先端を的確に挿入することは容易ではないので、先端を曲げたガイドチューブを使って押し込み方向を安定させると良い。燃料噴射ノズル、燃焼管の内壁と外壁、そしてタービンノズルの様子を検査する。
高圧タービンブレードの検査は、IPLEXのスコープを燃焼管側から挿入して、タービンノズルの間から観察して行うことが出来る。この場合、光学アダプターはAT120Dタイプが適しており、特にブレードのリーディングエッジにあるヘアクラックを検査する場合は、AT120D/NFタイプの光学アダプターを選択すると良い。高圧タービン側のアクセスポートから検査する場合は、AT80DタイプやAT120Dタイプの光学アダプターにリジッドスリーブとの組み合わせが好ましい。エンジンモデルによってはスコープを一周押し込んで高圧タービン部のシュラウドを検査することがあるが、IPLEXのスコープ部分は根元が硬く先端が柔らかいTapered Flex構造を採用しており、シュラウド検査時にスコープをスムーズに押し込んで挿入出来るため検査効率が高い。
低圧タービンは大きいので、低圧コンプレッサーブレードと同様、AT120D/FFタイプの光学アダプターが好まれる。
高圧コンプレッサーブレードと高圧タービンブレードは同じ軸に設置されており、OTTターニングツール※ を活用することで内視鏡検査を一人で行うことが出来る。一方、低圧コンプレッサーブレードと低圧タービンブレードはファンブレードと同じ軸に設置されており、OTTターニングツールを使用できる構造になっていない。従って、低圧コンプレッサーブレードと低圧タービンブレードを検査する際は、ファンブレードを手動回転させながら二人体制で検査することになる。
※OTTターニングツール:エンジンブレードを漏れなく正確に検査するために、任意の速度でブレードを回転したり、ブレード毎に回転を一時停止したりできる機器。
3. 大型エンジン検査
PW4000, Trent 700/800/900/1000, CF6, GE90, GEnx等の大型エンジンの構造は中型エンジンと殆ど同じであり、検査に使われる内視鏡の機種、光学アダプターやアクセサリは中型エンジンと変わりない。一部のエンジンの一周検査において、6mm径スコープではローターとステーターのギャップに挿入部が挟まる危険性があり、8.5mm径のスコープが推奨されている場合があるので注意が必要。8.5mm径スコープは挿入部がより頑丈で硬めの構造になっているため、押し込み性能が抜群である。さらに、8.5mm径スコープは出射光量が大きくノイズの少ない良好な検査画像を得ることが出来るので、多くのユーザーに人気がある。