遠隔目視検査(RVI)用のビデオスコープは、以前から、複雑な光学系とデジタルイメージング装置をスコープの小さな先端に取り付けるという課題に直面してきました。そのため、これまでは検査性能と測定性能が制限されていましたが、今では最新の技術革新がビデオスコープ技術を新たなレベルまで発展させています。
従来比4倍の面積をカバーする3Dステレオ測定と、高度な湾曲性と操作性を兼ね備えた次世代のビデオスコープは、特に航空宇宙用資材の大きな欠陥を検査する際に、時間を節約して効率を向上させます。意志決定における信頼性を高めることができるよう、検出の可能性と欠陥の特徴付けが強化されており、標準的なビデオスコープでは測定できない条件下でどれだけ正確な測定値が保証されるかが実例で証明されています。
概要
- これまで検出不可能だった細部の特徴をつかむことで、構成部品が目的に適合することを確実にします。
- 最新のビデオスコープを使用することにより、検査の質と検出確率が高まります。
- 従来比4倍の面積の3D測定が、スピードと効率を向上させます。
- 目の届かない場所を、先端部から対象物まで4~60 mmの距離で測定できます。
- ケーススタディにより、標準的なビデオスコープでは測定できない場所でも正確に測定できることが証明されています。
航空宇宙装置の隠れた傷を明らかにする
遠隔目視検査(RVI)は、航空宇宙装置を検査する際に、ガスタービン、エンジンシリンダー、燃料タンクなどの複雑な装置を分解する必要がないため、コストと時間を削減できる有用なツールです。
RVI技術が発展したことで、最新世代のビデオスコープは第一線の現場で行う検査の質と効率を基準に設計されるようになっています。明るい照明と組み合わせた高品質の光学部品が検査の質を向上させ、これを元々備わっている、正確な湾曲性能と検査効率の向上を可能にする構造により、有用性と検出確率(PoD)がともに大きく向上しました。これらの革新技術を基礎として、新しい超広角3Dステレオ計測を導入することにより、ビデオスコープは次の段階へと発展します。
これまで検出できなかった細部が明らかになると、すべての構成部品が求められる性能に適合しているという信頼性が高まり、それによって航空機の運用時間が増し、安全で確実な航行が確保されます。
より効率的な検査方法
次世代のビデオスコープには、操作性をはじめとする検査のあらゆる側面に対応するための、様々な機能が組み込まれています。目の届かない場所へのアクセス性を改善することは、迅速で効率的な検査サポートにおける基本であり、PoDの向上に直結します。現在では、42ストランドのタングステンメッシュによる極めて高い擦過耐性を持つ外蛇菅で保護された、高い柔軟性と操作性の組み合わせを実現する挿入部により、検査員は狭い空間を通して操作することが可能になっています。
これらの進歩を生かした、360°の全方位にわたる湾曲機能をダイレクトな感触で操作できるスコープを使用することで、検査員はスコープを容易に操作でき、以前よりも多くの構成部品を可視化できるようになっています。
操作性の改善の他にも、検査能力と計測能力を真のシングルオペレーションに融合させることにより、これまで検査ワークフローの精度を確保するために2つの異なる光学アダプターが必要とされていた操作効率の面にも、急速な進歩がもたらされています。標準的な検査用の光学アダプターを使用する場合は、欠陥が確認されるたびにスコープを引き抜き、計測用の光学アダプターを該当箇所に到達させ欠陥を再度分析していました。検査と計測を行える単一の光学アダプターは目視検査における大きな前進となりましたが、依然としてひとつの欠点が残されていました。標準的な検査に使用した場合、これらのシステムで得られる画像は比較的暗く低品質であるという点です。
大方の予想とは裏腹に、これらは観察のための現実的なソリューションにはならず、多くの場合、いわゆるシングルスクリーン、単一の光学アダプターのソリューションがもたらす時間節約の利点を低い画質が台無しにしてしまい、検査員はしばしば欠陥を誤って解釈したり、完全に見落としたりすることがありました。
観察の質と計測能力という2つの点がともに良好となる、インテグレーテッド3D計測技術を備えた最新のビデオスコープがこの課題を解決します。オリンパスIPLEX NXは、非常に高い解像度を可能にする改良されたCCDを特徴としています。高照度のレーザーダイオード、広い視野角、および高度な処理が組み合わされたこの製品は、明るく高画質の画像を提供します。計測用の光学アダプターを装着するだけで、より詳細を捉えることができ、広い角度の綿密な検査を単一のスクリーンビューで実施できるようになるため、検査と計測の両方に関して良好な性能が保証されます。
現在進められている効率追求において最も重要なことは、IPLEX NXでは従来のスコープに比べて視野角が1.5倍大きく、観察深度が1.7倍深いため、最終的に4倍広い面積を計測できるようになった(図1)点で、これにより大きな欠陥を単一の画像で検査して時間を節約し、効率を高められるようになっています。
最適な事例 | 200 mmを超える標的距離からの計測
IPLEX NXで達成可能な最善の結果を得るためには、目標被写体からの距離を、標準的なビデオスコープに要求される20 mmに対し、約40 mmにすることをお勧めします。極端な標的距離と反射条件に対するIPLEX NXビデオスコープの計測精度を検証するために、校正された100 mm(+/- 0.5 mm)の定規の既知の間隔を、200 mm(192.8~204.8 mm)超の標的距離から測定しました。考えられる最も厳しい条件にシステムを配置して最も厳しいケースのシナリオにおける達成可能な精度を把握するために、定規の表面は反射率が非常に高いものにしました。 標準的なビデオスコープでは計測データが何も得られなかったのに対し、IPLEX NXは99.79%の精度で計測結果が得られました。 |
図1 4倍大きな計測面積による迅速で効率的な検査
オリンパスIPLEX NXの1.5倍広い視野角と1.7倍深い観察震度で実現した、4倍広い測定面積(4b)により、短時間で総合的な検査が行えるようになる。標準的なビデオスコープの制限された視野(b)と比較して、入り込めない場所の欠陥も(2aと比較して)より離れた距離から計測することができる。
検出確率の向上
画質の向上は正確な計測をサポートするだけでなく、PoDの向上にもつながります。
観察震度が1.7倍に増え、先端部から被検体までの距離を4~60 mmに設定できたことで、これより遠い距離からでは欠陥を計測できない既存のシステムに比べ、PoDが劇的に改善されました。以下の事例で実証するように、このような観察震度の向上は、例えば熱交換管やタービンブレードのような入り込むのが困難な場所にある欠陥でも、対象物に接近することなしに観察できることを意味します。
3Dステレオ計測の進歩
航空宇宙分野の検査でPoDの向上とともに重要なのが、特定の欠陥における正確な計測です。正確に計測できれば詳細な洞察が得られ、十分な情報に基づいた意志決定が可能になるためです。最新の光学技術とデジタル技術を基盤として、新しい超広視野3Dステレオ計測を用いることにより、これまでより短時間に、先例のない精度で構成部品を検査することが可能になります。この計測は、新しい光学系と、1.5倍に広がった視野角に対応する高輝度光源を特長とする、IPLEX NXなどのビデオスコープに組み込まれています。
これは、本質的に計測面積が4倍に広まったことに等しく、一度の試行で欠陥全体をリアルタイムに捉えることを可能にしています。複数の画像と計測値を取得するという時間のかかる作業から検査員を解放することに加え、これは特に、遠い距離から大きな欠陥の特徴を把握するのに理想的です。サイジングとX、Y、Z面上の状況情報は、基準ポイントまたは計測ポイントがプロットされた後に自動的に取り込まれるので、この技術を使用することでさまざまな3D測定機能が可能になります(図2)。
測定には、プロットした2つのポイント間または基準線からの距離、複数のポイントで構成される面積/周長、およびポイントと基準面との深さまたは高さが含まれます。
プロセッサ技術と計算アルゴリズムの進歩により、計測性能の向上がサポートされるのと同時に、価値ある新しい能力が導入されています。例えば、リアルタイムでデータを表示することにより豊富な情報が提供され、検査員は検査を休止したり中断したりすることなく表面形状と距離に関する情報を逐一知ることができるので、迅速でシームレスなワークフローが可能になります。スコープ先端部から検査する表面上の複数のポイントまでの距離がマルチスポットレンジングで提供され、その適合性が、計測用の画像の取り込みに先立って、事前計測した表面状態と信頼性に関する情報を用いて直ちに評価されます。
これにより、画像を取り込む前に対象領域を計測できるかどうか、それとも異なる条件で再度画像を取り込まなければならないかどうかが示されます。こうした情報フィードを持たない標準的なビデオスコープとは異なり、超広視野3Dステレオ計測ではエラーの原因が表示されるため、ユーザーは同じ失敗の繰り返しを防ぐことができます。処理能力が強化されたことにより、単一の画像から収集する情報のレベルを複数の計測モードを適用することによって最大化できるようになり、IPLEX NXのユニット自体では3種類、互換性のあるPC上では10種類の計測を行うことができます。
図2 3Dステレオ計測による欠陥の定量化
計測には三角測量と方位角差を利用し、ポイントのX、Y、Z位置に関する情報の取得は、高品質の光学部品、CCDおよびプロセッサを用いて行われます。CCDの各辺を横切る歪曲収差が定量化され、進歩したアルゴリズムにより複数の3D計測機能が使用可能になりました。
困難な条件下における正確な計測
先に述べたとおり、次世代のビデオスコープは数多くの利点をもたらしました。困難な実際の状況におけるこうした利点の例を、以下に示します。
1.反射面
金属、ガラス、油の付着した表面をはじめとするさまざまな素材は、非常に反射しやすくなっています。残念ながら、標準的なビデオスコープを使用してこれらのサンプルを撮影しても、計測不可能な暗い領域しか得られません。そのため、被写体の幅を計測することができません。同じ条件下でも、超広視野3Dステレオ計測(図3)を使用すれば計測が可能です。
図3 IPLEX NXを用いた反射面の超広視野3Dステレオ計測 暗い領域がないということは、被検体全体を正確に計測できることを意味します。 計測結果:10.0 mmの定規に対して10.6 mmおよび10.1 mm |
2.暗い対象物
対象物が暗すぎると、多くのビデオスコープシステムは一般的に「測定エラー。より良い結果を得るには先端部を回転させるか、もっと近づけてください」というエラーメッセージを表示します。対象物が近くにある場合でさえ画像の取り込みに失敗するので、例えば大きな容器、燃焼室、吸光率の高い物質などを正確に検査することはできません。しかし、IPLEX NX超広視野3Dステレオ計測システムなら、長い距離でも正確な結果を得ることができるため、暗い環境内でも欠陥の寸法を決定できるようになります(図4)。
図4 IPLEX NXによる暗い対象物の良好なイメージング |
3.角度のついた対象物
CCDに向かってくる、または離れていく角度でイメージングされた対象物の計測は困難なことがあります。画像が良好に見えても、実際に計測可能なのは非常に小さな部分だけです。標準的なビデオスコープが備えている位相格子パターン投影用のLED照明には、多くの場合柔軟性がなく、計測できるように調節することができません。超広視野3Dステレオ計測を使えば同じ条件下でも結果を得ることができ、対象物は輝度調節によって全体が照らされます(図5)。
図5 IPLEX NXの輝度調節によって実現する十分な照明により、角度のついた対象物の計測が可能になる。 計測結果:10.0 mmの定規に対して0.6 mmおよび10.1 mm |
4.表面積が小さい/狭い対象物
ギアの歯やフロントエンドブレードのような構成部品を斜めから見ると、表面積は小さくなり、狭すぎてグレーティングパターンを投影できなくなります。これは、標準的なビデオスコープでは対象物の計測が不可能であることを意味しています。超広視野3Dステレオ計測を備えたIPLEX NXを使用すると、構成部品の遠位端を正確に測定することができます(図6)。
図6 IPLEX NXの超広視野3Dステレオ計測なら、この構成部品の狭い遠位端であっても正確な計測が可能である。 |
要約
検査時間の短縮と精度の向上が航空宇宙産業のメンテナンスにおける生産性向上の重要な要素であることから、オリンパスIPLEX NXのような次世代RVIビデオスコープによってこれらに取り組んできました。
この単一の光学アダプターシステムに統合された超広視野3Dステレオ計測による検査技術における急速な進歩がもたらされた結果、PoDが劇的に向上し、情報に基づく意思決定が容易になりました。これは、高品質の光学部品と広まった視野により、オペレーターが従来可能だった面積の4倍広い面積を検査できるようになったことで実現しました。実際に、観察深度が深まったことで、先端部から対象物までの距離が4~60 mmの範囲で正確な計測が可能になるので、アクセスが極めて制限されている場合であってもこの利点は維持されます。
リアルタイム情報の表示と強化された計算能力により、弱光および反射面を含むさまざまな検査条件であっても、信頼性の高い計測結果を容易に得ることができます。上記で証明されているように、標準的なビデオスコープでは計測できない検査条件でも、IPLEX NXは画像を取り込むことができます。
要約すると、最新の3Dステレオ計測技術は、高品質の画像によりPoDを向上させることで、これまで隠されたままになっていた欠陥を検査員が素早く見つけて正確に計測できるようにする技術、すなわち、航空機の性能に対する究極の信頼性を得るための、構成部品の徹底的な検査を可能にする技術であるといえます。
著者 Liam Hanna
Liamは、Olympus Consumer Imaging DivisionにImaging Specialistとして参加したときから、これらの技能を5年間にわたってScientific Solutions Divisionに伝えてきました。欧州・中東・アフリカ(EMEA)における遠隔目視検査のProduct and Application Specialistとして顧客に可能な限り最良のソリューションを提供するために、動的なアプローチが求められました。Liamは、将来の市場主導の製品開発に役立てるため、オリンパスのステークホルダー、すなわちグローバル組織、販売代理店およびエンドユーザーと緊密に協力、サポートを行い情報を収集し、また彼らから学ぶため、強い顧客重視の姿勢で長年を欧州、中東、アフリカ、ロシアおよびアジア全域を渡り歩いています。
連絡先情報
Liam G. Hanna
Liam.hanna@olympus-europa.com
Product Specialist RVI
VM Maintenance
Scientific Solutions Division
OLYMPUS EUROPA SE & CO. KG
Wendenstraße 14-18, 20097 Hamburg, Germany