OmniScan™ X3 64探傷器への位相コヒーレンスイメージング(PCI)の導入によって、現在の従来型超音波法では最も検出しにくい部類の欠陥を可視化して特性解析する能力が大幅に上がりました。PCIのイメージング機能強化では、このように困難なケースだけでなく、溶接部検査や亀裂のサイジングなど、一般的なケースについても効果があります。
現在の超音波探傷法(従来のフェーズドアレイ(PA)やトータルフォーカシングメソッド(TFM)法を含む)とは異なり、PCIの信号処理では、TFM画像の生成時に振幅が考慮されません。TFMゾーンのポイントごとに、基本A-スキャンの位相コヒーレンスを測定して、信号の位相情報のみを使用して欠陥検出が行われます。
PCIで克服可能な課題
減衰材料と粗粒材料
信号の振幅ではなく位相を基準にするということは、信号振幅が低くても周波数分布は判別可能なため、高減衰やバックグラウンドノイズのある材料の場合でも、信号のコヒーレンスを変わらず評価できることを意味します。
実際、バックグラウンドノイズが大きいほど、欠陥信号の位相コヒーレンスとカオスノイズのインコヒーレンスを、PCIで区別しやすくなります。これらのことから、結果としてオーステナイト鋼などの粗粒材料に効果があります。
小さい欠陥の検出(特に大きい反射源の近く)
例えば、クリープ損傷に対する従来のTFM画像とPCIモード画像を比較してみましょう。
振幅ベースのTFM画像(青色の背景)では、バックグラウンドノイズと底面エコーによってクリープ損傷はわかりにくくなっていますが、PCIモード画像(灰色の背景)でははっきりと見えます。どちらの画像も、10 MHz、64素子デュアルリニアアレイ™(DLA)プローブ、L-L波形セットを使用して取得されました。4
振幅は要素ではなくなったため、ゲイン調整と信号飽和もなくなりました。したがって、底面からの強いエコーや他の大きな反射源などによって、近接する小さい欠陥がわかりにくくなる問題が軽減されます。
PCIが特に効力を発揮する4つのケースを以下に示しますが、ここで取り上げたものがすべてではありません。
1. 高温水素侵食(HTHA)
高温水素侵食(HTHA)は、とりわけ初期段階には振幅技法で検出するのが難しい損傷メカニズムです。これは、欠陥の方向性、サイズ、底面への近さなど、複数の要因によります。
PCIでは、TFM画像の生成に基本A-スキャンからの位相情報のみを使用し、振幅は使用しないため、HTHAを初期段階で検出できます。これらの小さな反射源からの回折応答が、底面などの大きな鏡面反射源に比べてコヒーレント性が高いからです。同じ理由で、欠陥の方向性もそれほど重要ではありません。欠陥の小さな「へり」が回折信号を発するので、方向性を容易に確認できます。
振幅ベースの技法と比較して、PCIは初期段階のHTHAを優れた画像で表示しました。
2. 湿性硫化水素(H2S)損傷
硫化水素(H2S)の多い環境で見られる膨れを原因とする水素誘起割れは、振幅ベースの超音波探傷では興味をそそる検査対象になります。フェーズドアレイや従来のTFMによる0度検査を行えば、膨れを確認するのは簡単ですが、膨れが表面につながっているかを判別するのは難しいか、もしくは不可能です。音波が表面の結合部にアクセスできないか、振幅では膨れの広がりを十分に判別できないためです。
硫化水素(H2S)による膨れのPCIレンダリング。OmniPC™ソフトウェアに表示された画像は、OmniScan X3 64探傷器、7.5 MHz、64素子DLAプローブ、およびL-L波形セットを使用して取得されました。
応答信号の振幅が弱くても、PCIなら表面結合部が容易に確認できます。弱い信号でも位相情報は読み取れるので、この隠れた極めて重要な情報が明らかになります。
3. 応力腐食割れ(SCC)
従来のTFMと比べて、PCIは縦方向の欠陥に対する感度が向上し、特に応力腐食割れ(SCC)の検出とサイジングに効果的です。従来のTFMでは、縦方向の欠陥は可視化が難しく、セルフタンデム波形セットを使用する必要があります。セルフタンデム波形セットで欠陥を表示する場合、上部と下部が2つのグループに分かれてしまい、欠陥の特性解析が難しくなります。欠陥の方向によって弱く一貫性のない振幅応答になるためです。
それに対して、PCIでは縦方向の不規則な欠陥が確実に検出され、ディスプレイにはっきりと表示されます。さらに、一般にパルスエコーのT-TおよびTT-TT伝搬モードを使用すると、最良の結果が得られます。亀裂の急激な方向の変化による端部回折は、振幅は低いものの、コヒーレント性の高い位相応答を返します。この端部回折によって、割れの形状と方向を容易に識別でき、確かな情報を基に正確なサイジングが可能です。
PCIを使用すれば、SCCのような欠陥が存在する状況でも、少ないグループを使用して品質の高い画像が得られます。使用するグループが少なければ、セットアップやデータ収集の効率が上がり、特に経験の浅いUT検査員がPCIの使用方法を楽に習得できるようになります。
4. 溶接部検査
PCIでは、反射信号(フェーズドアレイ(PA)など)と端部回折の位相情報(TOFDなど)の利点が組み合わさることから、溶接部検査にとても効果的です。同一のスキャン範囲に必要なグループが少なくてよい利点もあります。
欠陥の種類によっては、PCIを使用することで特性解析が容易になります。
- サイジングが簡単。
- 欠陥の画像が実際の特徴に近似。
- 欠陥が別々のグループに分割される可能性が減少。
PCIは端部反射に対する感度が高いため、分析用に欠陥の正確な形状が表示されます。端部回折の「ホットスポット」により、溶接部の融合不良(LOF)などの欠陥のサイジングが容易になります。8
融合不良:
融合不良(LOF)は振幅ベースの技法で簡単に確認できますが、サイジングについては問題になることがよくあります。融合不良からの信号が飽和することは珍しくなく、そうなるとサイジングは不可能です。PCIでは信号が飽和することがないため、このような問題は起きません。また、融合不良の端部から回折が生じ、それをサイジングの基準点として使用できるため、ゲインを変更したり6 dBの低下を見つけたりする必要がなく、すぐ簡単にサイジングできます。
ポロシティ:
ポロシティの振幅応答はバックグラウンドノイズに似ているため、振幅ベースの技法で検出するのは困難なことが多くなります。PCIは小さい欠陥に対する感度が高いため、ポロシティが目に見えるだけでなく、個々のポアを区別し、識別することもできます。
亀裂:
SCCと同じ理由で、PCIは溶接部検査時の亀裂の識別とサイジングに優れたツールです。
PCIが振幅ベースの技法でより優れた結果を提供するアプリケーション例として、ここに挙げたのは一部にすぎませんが、その利点は、ノイズや減衰の大きな材料や小さい欠陥を含むその他の検査に広げられます。
検査プロセスの改善にPCIを役立てる方法の詳細については、お近くのEvident販売代理店にデモについてお問い合わせいただくか、当社ウェブサイトで他の資料をご覧ください。
現在、OmniScan X3 64を所有されている方は、MXU 5.10ソフトウェアに更新してPCIをすぐに使用できます。