航空機の運航とメンテナンスを担う組織において、航空エンジンの重要部品の検査は、定期的に行う予防保全手順のひとつです。このような手順を整えるのは、航空機の正常な作動を確認するためだけでなく、飛行の安全性を確保するためでもあります。エンジン内部には、タービンブレード、コンプレッサーブレード、燃焼室など、検査すべき構成部品が多くあります。
これらの航空エンジン部品の検査は主に、腐食や亀裂、異物による損傷などの潜在的な問題がないか、という観点で目視にて行われます。検査のためにエンジンを分解するには多くの時間とコストがかかるため、航空エンジンの目視検査には工業用内視鏡が広く使用されています。
例えば、ビデオスコープを用いてタービンブレードの検査を行う場合、アクセスポートからスコープを挿入し、検査対象のブレードが十分視認できる位置で固定します。スコープを固定し、タービンを回転させて各ブレードの状態を検査する手法が、検査効率の観点から一般的に採用されています。
この手法で検査する場合、ブレードステージごとに1~2時間かかりますが、その間、ブレードを常に同じ速度でゆっくり回転させる必要があります。この作業を実施するため、内視鏡を操作する検査員のほか、もう一人別のオペレーターが求められます。この作業を担当するオペレーターは、工具を用いて手動でエンジンシャフトを回転させ、内視鏡の検査画面に検査員が検査しやすい速度でブレードが表示されるように、検査員と息を合わせながら調整を行います。
タービンブレードの手動回転時における課題
但し、工具を用いた手動でのタービンブレード回転を行う場合、次のような課題があります。
まず、タービンを回転させる作業のためだけにオペレーターが必要となり、検査が非効率になる点です。また、騒音環境下や大型エンジンの検査時には、タービンの回転を担当するオペレーターと検査員の同期作業がしばしば困難となり、コミュニケーションの行き違いから、エンジンやスコープの損傷につながりかねません。
さらに、目視での検査であることから、欠陥の可能性があるブレードの位置を記憶しておくことは難しく、チェック漏れが発生することもあります。一方で、検査を確実に、効率的に行うべく、検査員がブレードの状態を確認しやすいように、エンジンシャフトを一定の速度で手動にて回転させることにも困難を伴います。
これらの課題を解決する有効なツールが、デジタルターニングツールです。このブログでは、Enerpac Sweeneyデジタルターニングツール(DTT)とビデオスコープを組み合わせて、主要な航空エンジン検査を行う際の利点についてご説明します。
Enerpac Sweeneyデジタルターニングツール
デジタルターニングツールを使用する利点
デジタルターニングツールとは、一般的に航空エンジンや船舶エンジン、発電タービンの内視鏡検査を支援するツールとして、高圧コンプレッサーや高圧タービンの検査時に、任意のトルクと速度、角度でエンジンタービンを電動で回転させることができるものです。デジタルターニングツールは、ローターシャフトの位置決めのプロセスを自動化することにより、航空エンジンの内視鏡検査における効率の向上を狙い設計されています。
ローターシャフトの位置決めプロセスの自動化は、Enerpac Sweeneyデジタルターニングツールがサポートするすべてのエンジンのタービン情報が、後述するコントローラーに標準設定されていることにより実現しています。すなわち、当該デジタルターニングツールには、対応エンジンおよびステージ毎のブレード情報があらかじめ組み込まれているので、ブレードのカウントや識別が可能です。また、欠陥の可能性があるブレードの位置を記憶できるので、その位置に戻っての再チェックも簡単に行えます。
デジタルターニングツールを用いることで、エンジンシャフトを回転させるオペレーターが不要となり、手動で操作するよりも効率が上がります。また、安定した操作と回転速度の維持、自動ブレードカウント、フラグ付け(検査中にフラグ付けした所定のタービンブレードに自動的に戻る機能)が実現します。
主要な航空エンジンの内視鏡検査における課題
では、いくつかの主要な航空エンジンの内視鏡検査にデジタルターニングツールがどのように役立つかを見ていきましょう。例えばGEnxエンジンはその構造上、タービンを回転させるために使用するアクセスポートがパイプやワイヤーハーネスに囲まれているため、手動で回転させる際のラチェットレンチとの接続が困難です。また、ラチェットレンチの可動範囲が狭く、一度に回転できる角度は15度と非常に限られてしまいます。
GEnxエンジン。画像提供:Georges Seguin (Okki), CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commonsより)
この構造的な制約は、エンジンの検査員やオペレーターに長時間の作業を強いることになっていました。このようなGEnxエンジンの検査における課題も、Enerpac Sweeneyデジタルターニングツールを用いることで解決できます。
Enerpac Sweeneyデジタルターニングツールをエンジンアクセスポートに取り付けることにより、駆動モーターでタービンブレードを回転させることができます。
このデジタルターニングツールには、狭いアクセスポート領域でも安定したドライブモーター接続を行える、GEnxエンジン専用のアダプターとシャフトが用意されています。これら専用のアダプターとシャフトを取り付けたうえで、ドライブモーターとアダプターを接続することにより、安全かつ効率的にエンジン検査を行えます。
もうひとつのペインポイントは、手動回転に必要な力量です。推力55,000から75,000ポンドの中・大型エンジンに分類されるGEnxを、ラチェットレンチを用いて手動で回転させることは、相当な力量と回転操作の安定性が求められ、エンジン検査におけるペインポイントとなっていました。
デジタルターニングツールのドライブモーター出力は30~150 ft lbの範囲で調整可能で、高いトルクによってエンジンを安定した速度で回転させることができるため、このペインポイントを解消できます。これは、ドライブモーター内の小型で強力な電気モーターにより実現されます。その結果、手動で回転させる場合と比較して、より効率的にエンジン検査を行えます。
さらに、デジタルターニングツールには、回転中に偶発的に発生する可能性のある損傷を防ぐ機能も備わっています。操作中、過大トルクが発生した場合に運転を停止するトルク過負荷センサーが内蔵されており、タービン部品にスコープが挟まってしまった場合にも、それを感知できます。これにより、高価なスコープやタービン部品の損傷リスクを大幅に軽減し、安全にエンジン検査を行えます。
ギアボックスを備えた航空エンジンを検査する際のヒント
PW1100GシリーズやV2500エンジンなどの航空エンジンはその構造上、ギアボックスを備えています。エンジンを回転させるには、ギアボックスを介して高圧システムを回転させる必要があり、検査員やオペレーターはそのために多大な労力を費やしています。通常、六角ソケットまたはラチェットレンチを用いてローターを回転させますが、ギアボックスを介していることで高圧ローターの回転には大きな力量が必要である一方、力量をうまく調整しないと、高圧ローターが速く回転しすぎてしまうという課題があります。
デジタルターニングツールを使用すれば、高いトルクで安定してローターを回転させることができます。
航空エンジン検査向けデジタルターニングツールの詳細
航空エンジンの検査効率と、欠陥検出の確率を高めるには、Enerpac SweeneyデジタルターニングツールとIPLEX™シリーズビデオスコープを組み合わせて使用することをお勧めします。これらの利点の詳細については、以下のビデオをご覧ください。