原子力発電所における内視鏡検査は、発電所運用の安全性、信頼性、法規制準拠を確実に行う上で、重要な役割を果たします。予防保守の取り組みに貢献し、要因分析を支え、高レベルの運用効率維持に貢献します。検査に携わる作業員が安全な作業環境で検査を行い、危険な放射線被ばくレベルを回避する上で、時間と距離は重要な要素です。
原子力発電所の放射線量ガイドラインとは
規制に確実に準拠し、安全で効果的な検査および保守活動を促進した上で、原子力発電所における検査での放射線被ばくを最小低限に抑えることは、作業員の健康を守るために重要です。こうした重要な検査によって、格納エリア内に腐食や破損の恐れがある導管や容器の存在が明らかになった場合、不測の放射性物質漏れを防ぐために直ちに対応する必要があります。場合によっては原子炉を停止して、完全防護服に身を包んだ作業員が検査を実施する必要があるかもしれません。しかし、内視鏡検査(RVI)であればは、コストのかかる運転停止を避け、時間と運用コストを節約し、作業員に有害な放射線量を軽減することができます。
NRC規格
主要な規制機関である原子力規制委員会(NRC)は、原子力施設のモニタリングおよび規制に厳格なガイドラインを設けています。核物質や放射線に関する潜在的なリスクを最小限に抑えるため、安全な手順に準拠しています。作業場の放射線被ばくはこの安全規格に沿って細かく規制されており、年間実効線量の上限は5レム(0.05シーベルト(Sv))に設定されています。ご参考までに、平均的な人が1年間に受ける自然放射線量は0.003
Sv未満です。原子力発電所の作業員が一般的に受ける被ばくレベルは年間0.01
Svで、一般的な基準で安全であると見なされるしきい値より低くなっています。これらのガイドラインを順守することで、原子力発電所で作業する人にとって安全な環境が確保されます。
「合理的に達成可能な限り低く(ALARAの原則)」の定義
ALARA(合理的に達成可能な限り低く)の原則は、放射線の安全における基本的な考え方であり、発電業務の効率を損なうことなく、達成可能な最小レベルの放射線被ばく量に抑える必要性を強調しています。この原則に従えば、放射線量を設定上限よりはるかに低くするために、継続的な警戒や最新技術の導入、作業手順の最適化が必要になります。内視鏡検査技術は進化し続けており、十分に離れたところから検査を行える、安全な代替手段を提供することで、作業員の年間実効線量レベルを抑えます。
原子力発電所で使用するビデオスコープにおいて重要となる要件
ビデオスコープは、離れた場所からの目視観察を実現する、高度な検査ツールです。ビデオスコープの挿入部を対象エリアまで到達させることで、検査員は離れた場所からモニターを通して対象の状況を分析できます。画像データは画面上でリアルタイムに見ることも、詳細な評価や分析、レポート作成のために記録することもできます。 IPLEX™ビデオスコープシステムを用いることにより問題をすばやく特定でき、迅速な意思決定とターゲットを絞ったメンテナンスをサポートします。当社のビデオスコープで採用されている挿入部は、発電所内の複雑な構造を容易にくぐり抜ける耐久性と操作性を備えています。IPLEXモデルには、多岐にわたる厳しい検査条件に適合すべく、さまざまなオプションと検査用途に合わせた外径・長さの挿入部が用意されています。さらに、取得した動画や画像は重要な資料としてレポート作成に役立てることができ、法規制に準拠した検査を支えます。 |
時間と距離は検査条件を判断する上で重要な要素です。長い挿入部を備えたビデオスコープを使用すれば、導水管などのアクセスしにくい場所の目視検査も可能です。挿入部が長くなるほど、作業員は放射線から距離を置くことができます。原子炉容器には発電所の運転に欠かせない構成部品が格納されていますが、このエリアは放射線レベルが高いため、アクセスが難しい場合があります。炉心シュラウド、制御棒駆動機構、その他の重要要素を含む原子炉容器内部を目視検査するため、ビデオスコープが用いられます。検査員は離れた場所からビデオスコープを操作して、リアルタイムで動画や画像を撮影することで、高放射線環境に直接入らずにこれらの構成部品の状態を評価できます。
加圧水型原子炉(PWR)と沸騰水型原子炉(BWR)の内部の検査エリア図
残念ながら、最適なビデオスコープを活用しても、放射線にさらされれば、完全に無傷の状態でいることはできません。汚染水で満たされたパイプの検査にスコープを挿入する場合、汚染は避けられず、損傷する可能性もあります。ビデオスコープを高放射線エリアで使用する場合、その汚染除去を行うのは、費用面でも、作業員の健康面においても、リスクがも高すぎると考えられます。発電所によっては、スコープを犠牲にして放射線エリアに永久的に設置したままにする場合があります。いずれにせよ、挿入部およびビデオスコープ本体は、原子力発電所の安全性検査および保守プログラムの要件と期待に沿うよう堅牢である必要があります。こうした理由から、当社では放射線エリアで長期間耐えうる機能を備えた、IPLEX GAirビデオスコープを設計しました。
以下は、GAirシステムが原子力発電所の検査に適していることを示す、5つの利点です。
原子力発電所におけるIPLEX™ GAirビデオスコープの5つの利点
1. 放射線ダメージに強い
IPLEX GAirビデオスコープの挿入部をテストした結果、1,400 Gy(吸収放射線量の測定単位)に累積的にさらされた後でも、レーザー照明とCCD画像センサーは変わらずに機能することがわかりました。特に有益なのがLED照明の光学アダプターで、このアダプターにより、放射線にさらされると黄変する可能性がある光ファイバーを使用せずに済みます。そのため、放射線環境でも寿命が長くなります。放射線の種類によりますが、1 Gyはおよそ1シーベルトに相当します。つまり、挿入部が耐えうる放射線量は、作業員の規定安全限界をはるかに上回り、人の年間暴露限界の約140,000倍です。
2. 安全な距離を保った検査IPLEX GAirビデオスコープには非常に長い挿入部が備わり、作業員がより安全な距離から検査できます。30mのスコープを放射線汚染エリア内の汚染水パイプに挿入して、作業員が離れた場所から制御・操作することができます。柔軟に対応するUSBワイヤレスLANアダプターによって、本体から15~20m離れた場所にあるタブレット端末で、ライブ画像を観察したり、静止画像や動画を記録したりすることができます。市販の中継器を使用すれば、最大100m離れた場所からIPLEX GAirビデオスコープをコントロールできます。 |
3. 交換可能な挿入部
IPLEX GAirビデオスコープの挿入部は、検査現場で簡単に交換できます。最初に装着していた挿入部が放射線で汚染されても、予備のスコープを持参すればその場で交換できるので、検査にかかる時間とコストを節約できます。
4. 最適化されたな照明、コントラスト、露光
パイプや容器の内部を離れた場所から検査するには、画像の明るさが欠かせません。 IPLEX GAirビデオスコープのLED照明光学アダプターは、スコープの長さに関係なく継続的に明るい光を届けます。WiDER™画像処理技術との組み合わせで、被写界深度全体にわたって明るくコントラストバランスのとれた画像を提供します。さらに、原子炉容器などの広い空間を検査する場合に、長時間露光機能を活用することで、欠陥が検出しやすくなります。
5. すばやく挿入できる扱いやすさ
検査員の安全を最大限確保にするため、放射線環境内の検査はできる限り早く作業を完了する必要があります。IPLEX GAirビデオスコープの湾曲機構にはエアコンプレッサーが内蔵されておりコンパクトなため、システムを検査現場にすぐ持ち込むことができます。
パイプ内の操作では、スコープ先端の重力センサーによって画像の天地方向が自動調整されるため、天地方向を見失うことなく検査をスピーディに行えます。また、スコープの先端に装着できるガイドヘッドにより、パイプのエルボーをスムーズに通過しやすくなり、検査効率がさらに向上します。
原子力発電所検査向け機器用ビデオスコープソリューションの詳細を見る
原子力発電所の一次系、二次系内のタービン、蒸気発生器、原子炉容器、復水器、パイプなどを対象とした、原子力発電所検査向け用IPLEXビデオスコープソリューションのラインアップをご覧ください。お客様のニーズに最適なビデオスコープについて、お気軽にお問い合わせください。
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