清浄度は、航空宇宙産業において最重要とされる事項であり、肉眼では見ることができない小さな混入物質がシステムの寿命を縮め、機能不全を招き、故障の原因となることもあります。タービン、燃料経路および燃料タンクなど、汚染に極めて敏感なシステムには特に清浄度が重要となります。こうしたリスクを回避するために、製造された航空宇宙コンポーネントの粒子状汚染を顕微鏡で検出することが、品質管理における基本となりました。
今回は、航空宇宙産業における清浄度分析の規格およびプロセスについて、検査ワークフローを簡易化し清浄度データの信頼性を高めるソリューションに焦点を当て、詳しくご紹介します。
航空宇宙における技術的清浄度の規格
製品の性能および安全性へのリスクに対する危機感から、厳重な技術的清浄度規格が、各企業および国際的な領域の双方において開発されるようになりました。これらの規格を実施するには、製造コンポーネントに付着した粒子状汚染の特質および量に関する詳細な情報が必要となっています。
そのため、多くの航空宇宙関連部品の製造業者は、技術的清浄度の評価に特化して設計された顕微鏡システムを頼るようになりました。これらのシステムは生産環境における清浄度監視をサポートしながら、材料およびエネルギーを節約するだけでなく、ダウンタイムも最小限に抑える働きをします。
顕微鏡を使った清浄度検査システムの例。
航空宇宙関連部品の清浄度評価方法
清浄度分析のプロセスは通常、生産ラインから部品を無作為に選び出すことから始まります。選び出された部品は、分析用に部品の表面から粒子を抽出するプロセスであるサンプリングが施されます。
要約すると、抽出プロセスは以下の手順となります。
- 部品を洗浄し、粒子を洗い流し液中に捕捉します
- 粒子を濾過し、メンブレンフィルター上に集めます
- 乾燥させた後、メンブレンフィルターの重量を測り、洗浄した部品の汚染レベルを計測します
メンブレンフィルターの重量の計測では、限られた情報しか得られないので注意が必要です。粒子の種類およびサイズなど、粒子状汚染の詳細を調べるために、光学顕微鏡を用いた分析を実施します。
この分析の結果は、国際規格に従って分類するため、非常に重要です。見つかった粒子の特質(形状、サイズの分布、および粒子の各クラスにおける汚染レベルなど)に関する詳しい報告がまとめられます。
金属粒子およびその他の種類の粒子に関する情報の収集
粒子の特質に関する情報は、金属粒子か非金属粒子かの区別や、繊維粒子か非繊維粒子かを区別する上でも非常に重要です。金属粒子の特定は、以下の理由により、多くの清浄度アプリケーションにおいて必要不可欠です。
- 金属粒子は非金属粒子より硬いため、検査対象のコンポーネントに害を及ぼす可能性が高くなります
- 金属粒子は機械的および電気的特性に劇的な影響を及ぼす可能性があります。
例えば、金属粒子があると内燃エンジンが燃焼しません。金属粒子は、徐々にコンポーネントの寿命を縮めます。金属粒子は金属材料の高い電導率によって、リチウムイオン電池生産の際の危険要因となります。特に、生産過程で金属不純物が混入すると、短絡が生じて電池の故障を招くおそれがあります。
顕微鏡分析の結果により、これらのクラスの粒子数が指定された制限数を超えることが示唆される場合、試験対象となった部品は清浄度分析としては不合格となります。
航空宇宙関連部品に関するその他のサンプリング技術
粒子を洗い流すことが好ましくない、または不可能なコンポーネントの場合、以下のサンプリング方法を代替として用いられることがあります。
1.航空宇宙コンポーネントのテープリフトサンプリング
テープリフト技術もその1つです。テープリフト技術は、感圧テープを対象部品の表面に貼り付けて混入物質を収集する方法で、ASTM E1216-11規格にその詳細が定められています。収集された粒子を顕微鏡で分析し、汚染レベルに関する情報を取得します。粒子が付着したテープを特殊なホルダーに取り付け、顕微鏡を使ってその数を計数します。
清浄度分析の準備として、顕微鏡にテープリフトサンプルをセットします。
検査領域で計数した粒子数を基に1000cm²あたりの数を外挿し、比較値を算出します。結果、計数した粒子数は、清浄度の度合いまたは表面の清浄度指数(SCI)の算出に使用することもできます。
SCIでは、大きい粒子は小さい粒子より損傷可能性が大きいため、粒子の計数結果を粒子サイズに基づいて重み付けします。各サイズクラスの粒子数にこの重み係数を乗じると、サイズクラスごとのSCIが得られます。各クラスのSCIを合算し、検査全体のSCIとします(下のスクリーンショットを参照)。
顕微鏡システムで捉えたテープリフトサンプリングによる清浄度の分析結果。表面の清浄度指数を示している。
2.汚染に極めて敏感な航空宇宙用部品のサンプリング
別の例として、IEST-STD-CC1246E規格に、汚染に極めて敏感な航空宇宙用部品の表面の清浄度の度合いを特定および決定する方法が定義されています。この規格も部品の表面1000cm²を基にします。
この試験では、規格によると、最初に粒子を部品の表面から洗い流し、メンブレンフィルター上に濾過します。それ以外にも、テープリフトメソッドを用いて粒子を表面から除去し、IEST-STD-CC1246E規格の分類に基づいて特定することも可能です。
さまざまな抽出方法および粒子の分析結果の提示方法を組み合わせることが可能なため、清浄度検査の多種多様な品質仕様および技術的条件に適応することができます。
航空宇宙用部品の清浄度検査の自動化
自動化システムにより、航空宇宙用部品の清浄度検査を簡素化できるだけでなく、データ信頼性も高めることができます。たとえば、CIX100検査システムは、サンプルの取り付けから規格に準拠したレポートの作成まで、一連のプロセスを合理化できるように設計されています。
ASTM E1216-11規格に準拠したテープリフトサンプルによる表面の清浄度指数を示すレポートの例。
CIX100ではサンプルを設置した後は、ワークフローに沿ったガイドと自動化により検査時間を短縮することができます。これらの機能により、オペレーターの介入が不要な測定が可能になると同時に、サンプルの汚染の可能性が低くなります。1回のスキャンで2.5µmもの小さな混入物質の検出と、金属粒子、非金属粒子、および繊維の識別が可能です。
さらにソフトウェアにより、メンブレンフィルター、テープリフトサンプル、またはパーティクルトラップといったサンプルの種類に応じて、画像設定および検査領域が最適化されます。ソフトウェアは、選択された規格に適合する結果およびレポートを生成し、航空宇宙産業におけるさまざまな検査目標に対応する高い柔軟性を提供します。レポートはクリック1つで生成されます。
航空宇宙産業ではデータインテグリティ、およびトレーサビリティが不可欠とされており、ユーザー権限の管理などの機能は非常に重要です。CIX100システムでは、特定のユーザーのみが、以下に代表される重要機能にアクセスできるような制限をかけることができます。
- キャリブレーション
- 検査設定および規格の修正
- レポートテンプレートのカスタマイズ
これらの制限があるおかげで、ワークフローが簡素化され、不馴れなオペレーターであっても、適用される規格に適合した、信頼性および再現性のある清浄度検査が実施できます。サンプリングからレポート作成までの一連のプロセスの実施についての詳細は、当社にご連絡いただき、デモンストレーションをお申込みください。