デジタル音声アシスタントからスマートホーム機器まで、人工知能(AI)は毎日の生活の中で一般的になっています。こうしたAIツールのおかげで暮らしが効率的になるのと同じようなことが、AIベースの画像解析ツールにも起こります。金属組織学と材料組織学において、AI技術を活用し、より簡単で正確な画像解析を可能にします。
微細構造解析における画像しきい値処理の課題を解決する
金属、合金、セラミックス、複合材料、その他の材料の微細構造解析で使用される、従来のしきい値ベースの解析の課題について考えます。画像のしきい値処理は、確立された微細構造解析の1つですが、いくつかの制約があります。
例えば、しきい値処理では画像内の特定の構造が検出されません。その代わりに、複数の対象物が区別されずに一度に検出されます。しきい値処理などの解析アルゴリズムでは、特定の構造の検出にその他の方法を用いることができます。エッジ強調フィルター、シェーディング補正、形態解析などです。問題は、これらの方法には自動解析可能にするためのプログラミングスキルと作業の両方が必要な点です。また、膨大な数の特殊ケースや例外を考慮すると、これらの方法では解決できない問題もあります。
対照的に、機械学習では複数の代表例を基にして、対象物検出ルールが作られます。画像内で事前に設定されたしきい値の画像領域を個別に分類するために学習させた、人工ニューラルネットワークに基づく自動評価によって、より簡単かつ正確に画像解析が可能となります。
金属組織学と材料組織学におけるAIを活用した画像解析例
AIによって画像解析がどのように向上するか、例をご覧ください。下の画像は、粒界、研磨目、埃を有する金属組織サンプルを示しています(図1)。
図1:粒界、研磨目、埃を有する金属組織断面。4
単純なしきい値設定を使用した画像解析ソフトウェアでは、研磨目や埃から粒界をはっきり区別できません(図2)。粒界だけを検出することができないため、不正確な粒度測定となります。
では、同じ画像をAIで解析したものを見てみましょう(図3)。研磨片の画像内で、粒界などの対象物から研削や研磨の跡、埃、残留物が区別されています。これは、AIベースの画像解析では、非常に不均一な粒子構造を持つ微細構造内の粒界を、高い信頼性と再現性で検出できるからです。さらに、構造成分をピクセル精度で分類できます。
図3:同じ金属組織断面をTruAIディープラーニングテクノロジーで解析したもの。AI解析では、研磨目や埃から区別して検出された粒界(赤色)がはっきり示されています。
工業用イメージングソフトウェアを使用したAIによる微細構造解析
最新の工業用画像解析ソフトウェアには、複雑な画像解析をサポートする人工知能が組み込まれています。当社のPRECiV™ イメージング・測定ソフトウェアには、TruA ディープラーニング技術が搭載されています。学習されたニューラルネットワークを画像に適用することで、より再現性の高い安定した解析が可能になります。
TruAI技術の便利な機能の1つに、 接触している対象物を別々に分割するインスタンスセグメンテーションがあります。この高度なセグメンテーション法が役立つのは、結晶粒、焼結や積層造形に用いられる粉末状材料、粒子、欠陥などに対象物が接触している複雑な画像です。ユーザーはインスタンスセグメンテーションを使用してネットワークを学習させ、それをワンクリックで適用して対象物を分割できます。
TruAI技術によるニューラルネットワークの学習には、ピクセルが背景と前景のどちらに属するか識別する、セマンティックセグメンテーションも使用できます。インスタンスセグメンテーションとは異なり、結合したオブジェクトを区別することはできません。そのため、セマンティックセグメンテーションでは、手動で事後処理をしてインスタンスセグメンテーションを行う必要があります。このことから、セマンティックセグメンテーションが向いているのは、はっきり分離している対象物や分離が重要でない場合などの単純な解析タスクです。フェーズ分析、溶接点の検出、熱影響部解析、レイヤー厚解析など、広い領域間の区別にはセマンティックセグメンテーションが役立ちます。
セマンティックセグメンテーションとインスタンスセグメンテーションはどちらも、PRECiVソフトウェアのカウントと計測ソリューションとマテリアルソリューションで利用できます。
金属組織学と材料組織学のニューラルネットワークを正しく学習させる方法
前述のように、学習済みニューラルネットワークを画像に適用するのは、微細構造の解析に効率的です。ただし、正確で再現性の高い画像解析のためには、ネットワークを正しく学習させる必要があります。ニューラルネットワークの適切な学習には、ラベル付けデータを基にアルゴリズムが生成されるため、注意深くラベル付けした例が必要です。つまり、優れた学習をさせるほど画像処理が向上します。そのため、学習工程には材料解析アプリケーションの専門家が関与することが重要です。
工業用画像解析におけるニューラルネットワークの正しい学習方法は以下のとおりです。
1. 学習用に画像にラベル付けをしてデータを検証する
ディープラーニング画像解析の場合、データのラベル付けにはグラウンドトゥルースを持つ画像を作成する必要があります。簡単に言うと、グラウンドトゥルースとはニューラルネットワークの学習と評価に使用する情報です。画像処理によって画像にグラウンドトゥルースをマーキングするか、手動でラベル付けをして、それらのラベルからネットワークが学習できるようにします。
学習データは専門家が検証する必要があります。これは学習済みニューラルネットワークによる解析で使用されるソースであるため、トレーニングに使用するデータを定義できるのは専門家だけです。画像内でネットワークが検出するべき細部について判断できるように、専門家は材料解析アプリケーションのベテランでなければなりません。
金属組織断面の例を考えてみましょう(図1左)。専門家はおそらく次のように問いかけます。この形状が粒界と見なされるのはいつか。異常をどのように評価するか。データは、各クラス内のすべての予測オブジェクトとマッピングを表すものでなければなりません。
2. ニューラルネットワークを学習させる
次のステップは、タスク用に最適な学習構成を選択することです。これには、学習データ増強と学習モデル選択の指示を使用します。
学習データを増やすことで、ニューラルネットワークモデルに学習させる機会を大幅に増やし、その信頼性を高めることで、学習を補強します。学習データは、回転、ミラーリング、その他の画像操作によって増殖されます。
重要なのは、特定のアプリケーションに効果のある増強方法に留意することです。例えば、回転が有効なのは優先方向のない構造ですが、圧延材料など引き伸ばされた材料には役立ちません。
3. 学習の成功度を検証する
ディープラーニングでは、特定の構造を持つ人工ニューラルネットワークが作成されますが、ネットワークで使用される判断プロセスは隠されています。判断理由に関して解析の根拠は一切提供されないため、
検証が欠かせません。専門家は解析結果が予想に一致しているかどうか確認することで、学習の成功度を検証できます。検証データセットにより、学習済みの人工ニューラルネットワークが特定の画像領域をどの程度認識できるかを比較できます。
ネットワークを使用して確率マップを生成することもできます。これは、学習中にオーバーレイとしてラベル付けされた検証画像上に表示できます。検証データは、ネットワークの学習に使用されたデータセットの一部ではないことに留意してください。学習状況を現実的に評価するため、学習画像と検証画像について、品質基準(損失など)の類似性をグラフで数値的に出力できます。
検証を含めて学習を実行した後、新しいデータセットを使用して、代表的な新しいデータ、つまりテストデータセットに対してもアルゴリズムが機能するかどうかをチェックします。人間の先入観によってAIの結果を誤解するリスクを減らすため、1人または理想的には複数の専門家が、この最終テストを検証する必要があります。
4. 学習済みニューラルネットワークを比較対象画像に適用する
これで学習済みのニューラルネットワークをセグメンテーション法に利用できます。照明や露光条件が似ている画像などの比較対象画像に適用できます。正しく学習させたニューラルネットワークの適用は、PRECiVソフトウェアなどの工業用イメージングソフトウェアで簡単にできます。ワンクリックで画像が自動的にセグメント化され、再現性の高い結果が得られます。
金属組織学と材料組織学のディープラーニングをさらに学ぶ
AIベースの画像解析について、その利点、仕組み、作業への適用方法のなど、詳細は当社のTruAIリソースセンターをご覧ください。当社専門スタッフが、お客様の材料解析アプリケーションにおけるAI導入をお手伝いします。