OmniScan® X3フェーズドアレイ超音波(PAUT)探傷器には、高性能のデータ取得および処理機能が搭載されています。これはフルマトリックスキャプチャ / トータルフォーカシングメソッド(FMC/TFM)として知られています。 この技法はプローブの信号を最適化することで、特定の用途において、画質の向上と信頼性の高い結果を生み出します。
単にFMC/TFMをOmniScan探傷器に付加したわけではありません。さらに改善も加えています。 このブログでは、改善されたFMC/TFMの3大特長について説明します。 その前に、基本的なことをお話ししましょう。
FMCとは?
フルマトリックスキャプチャ(FMC)とは、振動子アレイについて可能なすべての送受信の組み合わせ(フェーズドアレイプローブのすべての素子から提供される完全な音響情報)を収集するデータ収集方法です。 各素子が個々に発信する一方で、アレイにある他のすべての素子は返される信号を受信、つまり「聞きとり」ます。 これによって、FMCデータセットを構成する基本A-スキャンのマトリックスが生成されます。 フェーズドアレイによるデータ収集とは異なり、プログラミングされたフォーカルロウを使って実行されるFMC方式には、時間遅延あるいはビームステアリング機能はありません。
TFMとは?
トータルフォーカシングメソッド(TFM)処理によって、FMCで収集されたデータが解明されます。 TFMアルゴリズムは特定の変数を使用して、FMCデータセットに含まれる膨大な基本A-スキャンデータを波形データセットにソートします。 この波形データセット(伝搬モード)は、トランスミッターから画像ピクセル、そしてレシーバーへの超音波の経路を表し(反射を含む)、経路の各辺の波形タイプを横方向(T)または縦方向(L)で定義します。
OmniScan X3探傷器では、PAプローブを検査部位に沿ってスキャンさせると、FMCデータが記録およびエンコードされると同時に、TFMがそれを処理します。 得られたTFM画像は、選択したすべての波形データセットについてライブで表示されます(同時に最大4つの波形データセット)。 同じFMCデータセットを複数回再処理すると、指定したエンコーダー位置ごとに異なる再構成パラメーターが生成されます。
熟練者でない人の目でも欠陥の方向を簡単に識別
一定の条件下で、TFMビューは検査部位における欠陥の正しい幾何学的位置について、高度な焦点画像を表示します。 精度を左右する要素としては、使用するプローブとウェッジ、スキャン方法、検査部位の特性に関する事前知識、選択した伝搬モード(波形データセット)などがあります。 このテクノロジーに不慣れな同僚にレポートする必要がある場合は、欠陥の幾何学的方向を解釈できるように補助すると理解しやすくなります。
TFMはフェーズドアレイより優れている?
トータルフォーカシングメソッドとフェーズドアレイの比較は単純ではありません。 FMC/TFM技法はいくつかの用途で多くの利点がある一方で、フェーズドアレイはその他の用途で有効な場合があります。 両方のテクノロジーに対応する、高画質で高性能な探傷器を使用するのが最良の選択肢です。
TFMはどこでも均等に焦点を合わせることができる(ユーザー定義の「TFMゾーン」)ため、ゾーン内での探傷能力が標準的なフェーズドアレイと比較して高くなります。 FMC/TFM検査はフェーズドアレイよりもスキャン速度が遅く、焦点性能が機能するのはニアフィールドのみです。 フェーズドアレイも優れた画像を生成し、多くの場合、TFMで提供される品質と変わりありません。 長所と短所を項目ごとに比較した詳細な説明は、TFMに関するQ&Aページにあります。
OmniScan X3探傷器におけるFMC/TFMのデータ収集および処理は、提供する画像がさらに向上するよう、いくつかの画期的な機能とともに設計されています。
最も注目すべきイメージング機能強化項目は、以下の3つです。
1. ライブTFM包絡線
OmniScan X3探傷器の高度なTFM処理には、画像の信号振動を除去する機能が含まれており、最大振幅測定の信頼性と、欠陥指示の表示精度の向上が図られています。 また、欠陥の特性評価と振幅ベースのサイジング機能が強化されています。 さらに、TFM包絡線機能では標準の振動TFMレンダリングよりもデータ収集速度が速くなると同時に、振幅忠実性(AF)が維持されます。
高品質TFM画像をより高速に
実際に以下の画像をご覧ください。この比較では、包絡線がオン(上)およびオフ(下)のときの高温水素侵食(HTHA)欠陥を示しています。
HTHA欠陥をクリアに示す画像(包絡線オン)は、包絡線オフのTFM画像よりも粗い分解能で取得されていますが、AF測定値は標準の許容誤差2 dB未満のままです。 データ収集速度が速い(10.6 Hzに対して19.5 Hz)のは、分解能設定が粗く、計算負荷が軽減されるためです。 にもかかわらず、ご覧いただいたように画像品質は影響を受けません。 実際、TFM画像ではエコーを区別しやすくなっています。
2. AIM(Acoustic Influence Map)シミュレーター
標準TFMシステムを使用すれば、対象領域(ROI)がプローブの音波によって完全にカバーされると思われるかもしれません。 しかし、音響を左右するすべての変数(プローブ素子の回折パターン、音響パス、境界面での透過と反射の係数、対象欠陥の特性を含む)は、ROI内の音響影響レベルに作用する可能性があります。
対象とする欠陥が良好なSN比で検出されるようにするため、OmniScan X3探傷器にはAcoustic Influence Map(AIM)機能が搭載されています。
探傷器上でTFMスキャンプランを作成する場合、AIMモデリングツールは、各伝搬モード(波形データセット)でのROIにおける効果的な音響影響を示します。 以下のスクリーンショットでは、TTL(上)およびTTTT(下)のTFM波形データセットによって提供される対象領域が表示されています。
振幅の範囲を示すクリアなカラーマップ
AIM振幅マップの色は、TFM波形データセットがROIゾーン内で提供する範囲を明確に示します。
- 赤色のエリアは、超音波応答が非常に良好で、最大振幅は0 dB~−3 dBの範囲
- オレンジ色のエリアの最大振幅は3 dB~−6dBの範囲
- 黄色のエリアは−6dB~−9dBの範囲
- など
このツールを使用すると、検査に最適なTFM波形データセットを選択できます。
3. 最大4つの波形データセットを画面上で比較
検査中には、探傷器上で最大4つの波形データセット画像を比較できます。 複数の波形データセットを比較すると、欠陥のサイジングなどの検出タスクが容易になる包括的な情報が得られます。
精密なカーソル配置により欠陥サイジングがさらに正確に
ある波形データセットでは端部回折をクリアに確認でき、別の波形データセットではコーナートラップが明瞭に表示されます。3つ目の波形データ(溶接部の場合、通常はTT-T波形データセット)では欠陥のプロファイルが幾何学的にほぼ正確な位置に示されます。
波形データセットビューを組み合わせて使用することで、サイジングカーソルを自信を持って配置できます。
目に見える自信
これらのTFM機能が組み合わされたOmniScan X3探傷器は強力なツールであり、その高度なフェーズドアレイ機能との組み合わせは特に注目すべき点です。 主な利点は、多様で有益なデータを得られ、分析に自信を持て、重要な判断を確実に行うことができることです。
各種の検査用途に応じたFMC/TFMおよびフェーズドアレイ技法の特長についての詳細は、以下のリンクをご参照ください。
参照資料
OmniScan X3探傷器への切り替えをお勧めする5つの理由
アプリケーションノート:トータルフォーカシングメソッドの使用によるフェーズドアレイ超音波イメージングの改善
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