結像性能を乱す収差は、以下の図10-2 の様に分類されます。
ザイデル収差=「点像のひろがり」+「像面の曲がり」+「形状の歪み」
上記(1)から(3)は理想結像の条件(i)に反する「点像のひろがり」、(4)は(ii)に反する「像面の曲が り」、(5)は(iii)に反する「形状の歪み」を表すものとなります。また、(6)、(7)は光学系に使用されるガラス材料の特性によって生じる、像の 「色にじみ」を表します。なお、「点像のひろがり」については、回折の影響も含めるために、光を「波」として考えその位相までも考慮する「波面収差」と呼ばれる表現方法でも表す場合があります。
軸上物点から出た光線がレンズに入射した時、開口数(N.A.)の大きい光線ほど強く屈折され、理想結像位置からずれて光軸と交わります。この様に軸上光線で開口数(N.A.)の差によって結像位置が異なる収差を「球面収差」と呼びます。(「球面収差」は開口数(N.A.)の3乗に比例します。)
対物レンズでは開口数(N.A.).が大きくなるほど解像力が上がると言われますが、球面収差は悪化する傾向にあります。当社では高い設計及び製造技術により、高開口数(N.A.)でも良好な光学性能を有しています。
球面収差が十分小さく補正されていても、軸外物点から出た光線は像面上の1点に集まらず、彗星のように尾を引いた非対称なボケを作ることがあります。これを「コマ収差」と呼びます。
球面収差とコマ収差が補正されたレンズでも、軸外物点の像が1点に集まらずに同心円方向にある線分の像と放射状方向にある線分の像に分離することがあります。これを「非点収差」と呼びます。非点収差があると、フォーカス位置の前後で縦、横に点像のボケ方が変わります。
光軸に垂直な平面にある物体の像面は、必ずしも光軸に垂直な平面とはならず、一般には湾曲した面となります。この現象を 「像面湾曲収差」と呼びます。像面湾曲収差があると視野周辺に行くに従い像位置がずれていくので、像の中心でピント合わせをすると像の周辺がボケてしまいます。周辺まで良好な像を得るためには、この収差を十分補正する必要があります。
物体平面上の形状と像面での形状が相似形とはならない現象を「歪曲収差(ディストーション)」と呼びます。歪曲収差があると図10-6に示すように正方形の像がたる型や糸まき型となります。
顕微鏡光学系におきましても、若干の歪曲収差を有しております。歪曲収差があると形状測定において誤った計測を行う恐れがあります。
光学系に使用するガラスは、各波長により屈折率が異なる特性を有しています。それにより各波長毎で焦点距離が異なることとなり、結像位置のズレが発生します。この現象を「色収差」と呼び、光軸上での軸方向でのズレを「軸上の色収差」(縦色収差とも言います)、像平面上での ズレを「倍率の色収差」と区別して呼ぶこともあります。当社では多種に渡るガラスを用いて色収差を良好に補正しています。特にアポクロマート(MPlanApo)では青紫色(g線: 波長435nm)から赤色(C線: 波長656nm)までの広範囲にわたり色収差除去を実現しています。