by Tom Nelligan and Dan Kass著
超音波画像の医療分野への応用は、すでに多くの人々によく知られています。
この方法では、高い周波数の音波を使用して人体内部の臓器の非常に詳細な断面画像を作り出します。医療用超音波診断器は専用の多素子プローブ(フェーズドアレイという名前で知られています)と、それに付随するハードウェアとソフトウェアから構成されています。しかし、超音波フェーズドアレイ技術の応用は、医療診断に限定されるものではありません。近年、産業分野におけるフェーズドアレイシステムの応用も著しい広がりを見せており、一般的な超音波試験(溶接検査、接合部検査、肉厚分布、稼働中の装置の亀裂検出など)においても今までにないレベルでの情報の取得と映像化に活用されています。このレポートでは、フェーズドアレイシステムがどのように機能し、産業分野における超音波非破壊検査でどのように利用されているのかを簡単に説明します。
これまで、非破壊検査(NDT)で使用される超音波プローブは一般に単一の能動素子(高周波音波の発信と受信両方を行う)、または、発信用と受信用の一対の素子を使用してきました。これに対して、フェーズドアレイシステムの多くは、16から多い場合は256もの個別にパルス発信できる素子から成るプローブの組み合わせで構成されています。これらの素子は帯状(リニアアレイ)、リング状(環状アレイ)、円盤マトリックス(円盤アレイ)として配置され、場合によっては更に複雑な形状を持つこともあります。従来方式のプローブがそうであったように、フェーズドアレイ方式のプローブも直接接触用(ウエッジ付き斜角組立て品の一部として)、または、水浸法(水中経路を介する音響カップリング)として設計されています。プローブ周波数としては2MHzから10MHzの範囲が最も一般的に使用されます。フェーズドアレイシステムには高度なコンピューターを内蔵した装置が含まれており、この装置が多素子プローブの駆動、反射エコーの受信とデジタル化を行い、エコー情報を標準化された何通りもの形式でプロットします。従来方式の探傷装置とは異なり、フェーズドアレイシステムでは屈折角の範囲内やリニア経路に沿った音響ビームの走査、あるいは、異なる複数の深さ位置に焦点をあわせることが可能なので、検査セットアップの柔軟性と可能性がはるかに向上しています。
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| フェーズドアレイの標準的なプローブ |
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| 多素子の標準的な構成例 |
フェーズドアレイシステムは、その最も基本となる概念として、波と位相に関する物理的な原理を利用しています。具体的には、外へ出て行く超音波パルス列のパルスからパルスまでの時間を変化させることによってアレイ内の個々の素子から発生する超音波のエネルギーが相互に強め合う、または打ち消し合う状況を作り出し、その結果として予測どおりの方向と形状を持つ音波ビームを発生させます。
そのための方法として、プローブの個々の素子を微妙な時間差を付けながらパルス動作させます。複数の素子(4~32素子)をグループとしてパルス動作させるという手法もしばしば用いられます。その目的は、開口幅を大きくすることによって有効感度を向上させ、望ましくないピークの広がりを押さえて、よりシャープな焦点を形成することにあります。希望するビーム形状を作り出すためには、それぞれの素子グループごとにパルス発生のタイミング(遅延)を計算しなければなりません。そのためのソフトウェア(フォーカルロウカリキュレーターとして知られています)はプローブとウエッジの特性ばかりでなく、試験体の幾何学的形状や音響特性をも考慮に入れる必要があります。あらかじめプログラミングされたパルス発生シーケンス(装置のオペレーティングソフトウェアが選択)に基づいて多数の相互に独立した超音波が試験体内部に送り出されます。これらの超音波が相互に強め合う/打ち消し合うことによって最終的に一つの超音波が合成されます。この超音波が試験体内部を伝搬する過程で欠陥や不連続面、底面、あるいは異種材料境界面によって反射されるという点では通常の超音波と同様です。単一プローブでは異なる角度ごとに何度も試験材料を検査しなければなりませんが、フェーズドアレイでは一度にビームをさまざまな角度、焦点距離、焦点サイズで操作することができます。ビームは非常に高速な操作に対応するので、複数の角度や複数の焦点深さを用いる測定を
1秒の何分の1という短時間で実行することができます。
複数の素子(または複数の素子グループ)が反射エコーを受信すると、適宜時間シフトを適用してウエッジの遅延時間を補正した後に信号が合算されます。従来型の単一素子プローブが、目的領域に達したすべてのビーム成分を区別せずにひとまとめに取り扱うのに対して、フェーズドアレイプローブは反射された超音波を個々の素子が検知した到着時間と振幅に応じて空間的に分類して取り扱います。装置のソフトウェアで処理することによって個々の素子ごとにフォーカルロウが得られます。このフォーカルロウから、その波がビームのどの角度成分に由来するのか、リニア経路のどの位置からの反射なのか、あるいは、どの焦点深さからの反射なのかを知ることができます。得られたエコー情報は何種類かの形式で表示することができます。
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| 遅延を変化させることによって、平面プローブから斜角ビームを発生させる例 |
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| 焦点合わせを行ったリニアスキャンビームの例 |
多くの標準的なきず探傷と厚さ測定のアプリケーションでは、超音波試験データは、RF波形を処理して得られる時間と振幅情報をもとにしています。これらの波形と波形から抽出される情報は一般に以下の 4種類の形式のいずれか、または複数の形式の組み合わせで次のように表示されます: A-スキャン、B-スキャン、C-スキャン、S-スキャン。このセクションでは、従来方式の探傷器とフェーズドアレイシステムの画像表示をいくつかの例を用いて示します。
Aスキャンは超音波信号の時間と振幅を示す単純なRF波形表示であり、従来型の超音波探傷器や波形表示機能を持つ厚さ計により一般的に表示されます。A-スキャン波形は、試験片を通る一つの音波ビームの位置からの反射を表しています。下の図(探傷器により得られるA-スキャン)は、鋼材のリファレンスブロックの側面にあけられた2本のドリル孔からの反射を表しています。共通単一素子方式の接触プローブから送り出される円筒状音波ビームは3本の孔のうち2本を捉えており、時間軸上の異なる2点(孔位置の深さに対応)に2本の明瞭な反射が現れています。
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| 側面から見た垂直ビームのイメージ | 垂直ビームによる A-スキャン画像 |
斜角方式の単一素子プローブを使用する従来型探傷器の場合は、角度の付いた経路に沿って 1 本のビームを送り出します。進む距離に応じてビーム直径は拡散効果により大きくなる傾向を示しますが、それでも、従来方式の斜角ビームが包含する面積(視野)は斜めの経路に限定されます。下に示す例では、位置を角度45°に固定したウエッジが送り出すビームのカバーする範囲内に、試験ブロックの側面にあけられた3本のドリル孔のうち2本が入っています。しかし、残りの1本を捉えるためにはプローブを前方向へ移動させなければなりません。
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側面から見た斜め入射ビームのイメージ
| 斜め入射したビームによるA-スキャン画像 |
フェーズドアレイシステムを使用した測定においても、これに類似したA-スキャン波形を基準用として示しますが、多くのケースでは、これを補足するためにB-スキャン、C-スキャン、またはS-スキャンも表示します(以下の例参照)。これらの標準画像形式は、オペレーターが試験片内の欠陥のタイプと位置を視覚的に把握する助けとなります。
B-スキャンとは、試験片内を垂直方向へ切った一つのスライス内における断面積を示す画像です。具体的には、反射体の深さ情報をプローブのリニア位置の関数として表示します。B-スキャン画像を得るためには音波ビームを試験片のある特定の軸に沿って機械的または電子的な方法でスキャンし、その過程で必要なデータを取り込む必要があります。下に示すB-スキャン画像例は、深い位置に二つの反射体が存在し、浅い位置に一つの反射体が存在することを示しており、それぞれが試験片の側面にあけられた孔に対応しています。従来型探傷器でこの画像を取得するためには、プローブを試験片上で横方向へ移動させなければなりません。
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| 側面から見たビームイメージ | 典型的なB-スキャン画像(孔の相対的な深さを示す |
これに対して、フェーズドアレイシステムはリニアアレイプローブの長さ方向に沿って電子的にスキャンを行うことができますから、プローブ自体を移動させることなく、画像と同様な断面積を取得することができます。
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| 電子的に行ったリニアスキャン(B-スキャン)画像: リニアアレイの長さ方向に沿って孔の深さと相対的な位置関係を示している |
C-スキャンはデータを試験片の上端面または平面上に2次元的に表示する方法であり、グラフとして見ると、例えばX線画像に類似しています。
試験片のそれぞれの位置における状況を反映した信号を
x-y座標へマッピングし、画像の色がその信号振幅を反映しています。従来型の装置を用いてこの画像を得ようとすると、試験片上のx-y走査パターンに沿って単一素子プローブを移動させなければなりません。フェーズドアレイシステムならば、プローブを1軸に沿って物理的に移動させ、もう一方の軸についてはビームが電子的にスキャンします。エンコーダーを使用しないマニュアルスキャンでも多くの場合は十分な情報が得られますが、正確で幾何学的なスキャンモードを維持・取得するためには、エンコーダーが一般的に使用されます。
下に示すのは次の二つの方法を用いてリファレンスブロックを測定したC-スキャン画像で、
従来方式の水浸スキャンシステム(焦点付き水浸プローブ)を用いた測定と、可搬型フェーズドアレイシステム(エンコーダー付きハンドスキャナーとリニアアレイを使用)を用いた測定です。両者の画像分解能が完全に同等ではないことに加えて、その他にも考慮すべきいくつかの点があります。フェーズドアレイシステムは現場へ持ち運び可能ですが、従来方式のシステムはそうではなく、かつ、前者の価格は後者の約3分の1です。さらに、フェーズドアレイ画像が数秒で得られるのに対して、従来の水浸スキャンでは数分程度の時間を必要としました。
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| ビームとスキャン方向のイメージ | 従来方式によるC-スキャン画像(孔位置を示す) |
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| ビームとスキャン方向のイメージ | フェーズドアレイによるC-スキャン画像(孔位置を示す) |
S-スキャン(セクタースキャン)は、A-スキャンを何回も繰り返して得られるデータを時間遅延と屈折角を変化させながらプロットすることによって描くことのできる2次元断面画像を示します。水平軸は試験片の幅方向に対応し、垂直軸は深さに対応します。この表示形式は産業用フェーズドアレイ画像に限らず、医療用超音波診断器でも同様です。音波ビームは一定の角度範囲を走査して、ほぼ円錐に近い形状の断面画像を作り出します。この例で分かるとおり、フェーズドアレイプローブならば1箇所のプローブ位置からビーム走査することによって3個の孔全部をマッピングすることができます。
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| 左): 一つの角度成分から得られるA-スキャン、右): 複合セクタースキャン カーソルのマーキング49°は、表示されているA-スキャンの角度位置を示します。 |
従来型の超音波探傷器が使用されてきたアプリケーションであれば、原則としてどのようなものでも超音波フェーズドアレイシステムを適用することができます。その中でも最も重要なアプリケーションである溶接検査と亀裂検査は、航空宇宙、発電、石油化学、金属ビレット、配管製品、パイプライン建設とメンテナンス、構造用金属部材、一般製造業など、幅広い産業分野で実施されています。腐食調査の各種アプリケーションにおいても、フェーズドアレイを利用して減肉プロファイルを効率的に測定することができます。
1個のプローブ組立て品を操作することによって複数の素子の操作、焦点合わせ、ビームのスキャンを行えるフェーズドアレイ技術は、従来方式の超音波検査(UT)と比較して多くの利点を持っています。ビームの方向をコントロールする(一般にセクタースキャンと呼ばれます)ことにより、適切な角度で個々の要素をマッピングすることができるので、これによって複雑な形状であっても個々の要素を非常に簡単に検査することができます。プローブの接触面積が小さく、かつ、プローブを移動させずにビームをスキャンさせることが可能であることから、機械的なスキャン動作が強く制限されるような状況下においても部品を検査することができます。セクタースキャンは溶接検査においても標準的な手法として用いられています。1つのプローブで複数の角度方向を検査できる能力を持つことから、異常箇所の検出確率が著しく高くなります。また、電子的に焦点合わせを行えることから、欠陥の存在が予想される領域におけるビームの形状とサイズの最適化が可能となり、検出確率がさらに向上します。異なる深度位置で焦点を合わせられる能力を持つことから欠陥のサイズ判別機能が向上し、欠陥の空間的広がりの検査に役立ちます。難しいアプリケーションであっても、焦点を絞り込むことによってS/N比が著しく向上するばかりでなく、多くのグループの素子で電子的にスキャンすることによりC-スキャン画像を非常に迅速に取得することができます。
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